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「デスオ」10円
もう目は開かない。
「とうちゃん、死なないで」
息子に、ベッドを揺らされている。
「パパ、がんばって、ハワイに行こうって約束したでしょ!」
妻は私の手を強く握った。
僕は声を発することもできない。とうとう力尽きた。
暗闇を漂う。死んだのか……。妻と息子の声は聞こえなくなった。
死後の世界とは、なんなのか。
暗闇の遥か先に、光りが見えた。僕は、暗闇の空間をもがくように進んだ。
「ようこそ」
僕の体は存在していない。無の状態だ。だが目の前のどんぐりは、僕に話しかけてきた。考えることはできる、意識はあるのだろう。
「ようこそ」
「それさっき聞いた。どこ?誰?」
「ようこそ」
どうやら、声が聞こえていない。
「私がこの死の世界の番人デスオですお」
「知らない」
「知らなくてもけっこうですお」
「あ、通じた」
「どうやら、こちらの世界に慣れてきたようですお」
「?」
「知らなくてもけっこうですお」
「あなたは、どんぐりですか?」
「私の姿は、見る人によって変わります」
「あなたの死は、私が案内します」
「ここはどこだ?」
「あなたは死にました、だからここにいます」
「君は誰?」
「私がこの死の世界の番人デスオですお」
「デスオさん、私は生きたい」
「無理ですお」
「え?」
「あなたは死んでます」
「やっぱり……」
「現実を受け入れるべきですお」
真っすぐ長い行列が並んでいる。
「あれは何ですか?」
「死議員の裁定待ちの行列です。あなたもいずれ順番がきます」
「知らなくてもけっこうですか……」
「いかにも」
「デスオさん、死ぬっていろんなことを聞いていたけど」
「よくある問い合わせですお」
「天国?」
「ありません」
「地獄?」
「ありません」
「閻魔大王?」
「いません」
「死議員?」
「死の議員ですお」
「説明になってないような……」
「死議員は、あなたの人生を振り返り、来世の生物を何にするか検討する者ですお」
「もう一度人間に?」
「あなたは、なれないでしょうね」
「あなたは?」
「知らなくてもけっこうですお」
「何か宗教でもしておけばよかった。うう……」
「宗教はポイント高いですから」
「え?」
「知らなくてもけっこうですお」
「ちくしょう」
声と意識しかない僕は、泣くことも頭を掻くことできない。
「どうしても僕がこんな目に」
「死んだから」
「……」
「確かに、暴飲暴食を繰り返し、不規則な生活をしていたから」
「自業自得ですお」
「息子はまだ小学三年生で」
「だから?」
「死にたくない」
「でも、死んでます」
「うぅ……」
「気を付けて、あまり悩むと意識も消えます」
「消えるだと……」
「消えた方は、来世もありません」
「過去に消えた方は、カエサル、チンギスハン、関羽、卑弥呼、源頼朝、足利義満、織田信長の七人ですね」
「少ないな」
「大抵、来世を生きたいと思われてますから」
「ほう」
「あなたも八人目に加わりますか?」
「やめときます」
「ただ審判を待つと?」
「ですお」
「ふむ。この外は何がある?」
「この暗闇は、無限に広がっています。遠くに行ってもいいですが、列の最後尾に並ぶことになります」
「あと何人?」
「たったの65503番です」
「そういえば、人間なんて世界中で死んでいるから……」
「人間だけじゃありません、アメーバから植物まで他の生き物も並びます」
「そうか……」
「デスオさん、死って何?」
「死とは、来世を生きることですお」
「僕にも用意されるのか」
「そうですお」
このどんぐりやろうと何を話せと。待ち続けることが苦でしかない。
死んだことが、嘘のようだ。だけど悩みすぎたらこの意識さえも消えてしまう。
「暇なのだが」
「暇とかそういう軽い言葉は、やめてください。あなたの来世が決まる大切な時間ですお」
「すみません」
「言っておきますが、この時間の内容は全て、死議員は聞いています」
「本当に」
「だいぶ、マイナスに評価されるでしょう。マイナスされればされるほど、単細胞生物に近づきます。評価が極プラスならば、人間もいけたのですが」
「早く言えよ!」
「残念です」
「ばかやろー」
「おっと、本音というのは、死んだ後に聞けるもの」
「なんということだ」
「口は災いの元ですお」
「失敗した……」
「お、あなたの番ですお」
「え?」
「死議員の声が聞こえませんか?」
「どれどれ」
「死議員の検討の結果、あなたの来世はトンボですお。ではがんばって」
「デスオさん……」
暗闇を抜けると、そこは生の世界。
僕は、紫色に広がるラベンダー畑の上を羽ばたき、空を飛んだ。
完




