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「デスオ」10円小説家で検索

掲載日:2014/04/30

「デスオ」10円


 もう目は開かない。

「とうちゃん、死なないで」

息子に、ベッドを揺らされている。

「パパ、がんばって、ハワイに行こうって約束したでしょ!」

妻は私の手を強く握った。

僕は声を発することもできない。とうとう力尽きた。

暗闇を漂う。死んだのか……。妻と息子の声は聞こえなくなった。

死後の世界とは、なんなのか。

暗闇の遥か先に、光りが見えた。僕は、暗闇の空間をもがくように進んだ。

「ようこそ」

僕の体は存在していない。無の状態だ。だが目の前のどんぐりは、僕に話しかけてきた。考えることはできる、意識はあるのだろう。

「ようこそ」

「それさっき聞いた。どこ?誰?」

「ようこそ」

どうやら、声が聞こえていない。

「私がこの死の世界の番人デスオですお」

「知らない」

「知らなくてもけっこうですお」

「あ、通じた」

「どうやら、こちらの世界に慣れてきたようですお」

「?」

「知らなくてもけっこうですお」

「あなたは、どんぐりですか?」

「私の姿は、見る人によって変わります」

「あなたの死は、私が案内します」

「ここはどこだ?」

「あなたは死にました、だからここにいます」

「君は誰?」

「私がこの死の世界の番人デスオですお」

「デスオさん、私は生きたい」

「無理ですお」

「え?」

「あなたは死んでます」

「やっぱり……」

「現実を受け入れるべきですお」

真っすぐ長い行列が並んでいる。

「あれは何ですか?」

「死議員の裁定待ちの行列です。あなたもいずれ順番がきます」

「知らなくてもけっこうですか……」

「いかにも」

「デスオさん、死ぬっていろんなことを聞いていたけど」

「よくある問い合わせですお」

「天国?」

「ありません」

「地獄?」

「ありません」

「閻魔大王?」

「いません」

「死議員?」

「死の議員ですお」

「説明になってないような……」

「死議員は、あなたの人生を振り返り、来世の生物を何にするか検討する者ですお」

「もう一度人間に?」

「あなたは、なれないでしょうね」

「あなたは?」

「知らなくてもけっこうですお」

「何か宗教でもしておけばよかった。うう……」

「宗教はポイント高いですから」

「え?」

「知らなくてもけっこうですお」

「ちくしょう」

声と意識しかない僕は、泣くことも頭を掻くことできない。

「どうしても僕がこんな目に」

「死んだから」

「……」

「確かに、暴飲暴食を繰り返し、不規則な生活をしていたから」

「自業自得ですお」

「息子はまだ小学三年生で」

「だから?」

「死にたくない」

「でも、死んでます」

「うぅ……」

「気を付けて、あまり悩むと意識も消えます」

「消えるだと……」

「消えた方は、来世もありません」

「過去に消えた方は、カエサル、チンギスハン、関羽、卑弥呼、源頼朝、足利義満、織田信長の七人ですね」

「少ないな」

「大抵、来世を生きたいと思われてますから」

「ほう」

「あなたも八人目に加わりますか?」

「やめときます」

「ただ審判を待つと?」

「ですお」

「ふむ。この外は何がある?」

「この暗闇は、無限に広がっています。遠くに行ってもいいですが、列の最後尾に並ぶことになります」

「あと何人?」

「たったの65503番です」

「そういえば、人間なんて世界中で死んでいるから……」

「人間だけじゃありません、アメーバから植物まで他の生き物も並びます」

「そうか……」

「デスオさん、死って何?」

「死とは、来世を生きることですお」

「僕にも用意されるのか」

「そうですお」

このどんぐりやろうと何を話せと。待ち続けることが苦でしかない。

死んだことが、嘘のようだ。だけど悩みすぎたらこの意識さえも消えてしまう。

「暇なのだが」

「暇とかそういう軽い言葉は、やめてください。あなたの来世が決まる大切な時間ですお」

「すみません」

「言っておきますが、この時間の内容は全て、死議員は聞いています」

「本当に」

「だいぶ、マイナスに評価されるでしょう。マイナスされればされるほど、単細胞生物に近づきます。評価が極プラスならば、人間もいけたのですが」

「早く言えよ!」

「残念です」

「ばかやろー」

「おっと、本音というのは、死んだ後に聞けるもの」

「なんということだ」

「口は災いの元ですお」

「失敗した……」

「お、あなたの番ですお」

「え?」

「死議員の声が聞こえませんか?」

「どれどれ」

「死議員の検討の結果、あなたの来世はトンボですお。ではがんばって」

「デスオさん……」

暗闇を抜けると、そこは生の世界。

僕は、紫色に広がるラベンダー畑の上を羽ばたき、空を飛んだ。




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