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女の子男の子

 ヒメールの周りの女の子達は、何でもヒメールに相談をする様になった。ヒメールを見る目が変わったのだ。

 ヒメールはいつも綺麗に髪の手入れをし、お洒落にも気を使っていた。それはヒメールが本物の恋を知ってから。

 それからのヒメールは、以前にも増して美しく輝いていた。そんなヒメールを羨む女の子達は、どうしたらヒメールの様になれるのかを、いつも尋ねてきたのだ。

 「ヒメール、どうしたら綺麗に痩せられるの?」

 「ヒメール、好きな人が居るんだけど、どうしたら仲良くなれる?」

 周りの女の子達も、本物の恋を知ると、一足早くに『女』として目覚めたヒメールに助言を求める。

 ヒメールは嫌な顔一つせず、嬉しそうに彼女達一人一人にアドバイスをした。


 「彼女達も私と同じ、恋する女の子。私は願ったわ。自分の恋もそうだけど、彼女達の恋も実って欲しいと。だから恋の悩みを受ければ、協力をしてあげたわ。私自身、その時はとても楽しかったから。自分の恋を頑張る事も、誰かの恋を応援してあげる事も・・・。」


 ヒメールはこの時が一番、女らしく輝いていた。恋をしているから、と言う理由だけではない。周りの女の子達と一緒に、恋について悩んだり、時には泣いたりと感情豊かに過ごしていたからでもあった。


 「でもそう思っていたのは私だけ。私は恋する人の為に、綺麗になろうとしていたわ。でも気付いたら、彼女達の見本となる為に、自分を磨く様になっていたの。それは彼女たちがそう求めたから。私は彼女達を幻滅させない為に、自分を磨き続け、女の子らしく有り続けたわ。」


 ヒメールはよく女の子達に言われた。

 「ヒメールって、女の子らしいよね。」

 「ヒメールって、本当『女の子』って感じだよね。」

 「仕草とか、言葉使いも綺麗で本当女の子だよね。」

 口ぐちに言われる、『女の子』と言う言葉。ヒメールはその言葉の通り、誰よりも女の子で有り続けた。

 ちょっとした仕草、可愛らしい言葉使い、いつも綺麗にしている身だしなみ、考え方、好きな色、全てが『女の子』に持つイメージ通りにしていた。


 「本当は、ピンク色よりも青色の方が好きだったの。だけど青色は女の子のイメージではないから、ピンク色が好きだと言ったわ。彼女達も・・・彼女達だけじゃない、彼等もその答えを望んでいたから。女の子らしい服を着て、髪も長く伸ばしたわ。」


 ヒメールの周りの男の子達も、ヒメールは誰よりも女の子らしいと言った。ヒメールは彼等の要望にも答えたのだ。

 

 「女の子って、どんなイメージ?非力で重い物なんて持てない?趣味はお菓子作りやお裁縫で、可愛らしい物を身に付けて、縫いぐるみが好きだったりする?お洋服は可愛らしいワンピース。髪は長いストレートで、クスクスと小さく笑う。絵に描いた様な女の子。皆は私にそんな女の子のイメージを求めたのよ。だからそうした。それだけよ・・・。」


 皆で町にある小さな遊園地のお化け屋敷に入った時、ヒメールは誰よりも怖がり、出口に着く頃には、ヒクヒクと小さく泣いた。周りに居た皆は、愛おしそうにヒメールを慰めた。

 「もう大丈夫だよ、出口だから。」

 「もう怖くないからね。」

 そう言って優しくヒメールの頭を撫でる。

 その時のヒメールは、誰よりも『女の子』だった。


 しかし、ヒメールが始めての失恋を体験すると、ヒメールはそれまで綺麗に保ち続けていた自分が、どうでもよくなってしまった。だからと言って、『女の子』らしくいるのを止められる訳では無かった。


 「本当は髪も、洋服も・・・どうでもよかったの。だってそんな元気は無いし、何よりとても悲しかったから・・・。私の恋は実らなかった。そもそも恋を実らせたくて、女の子らしくしていたのに、今では皆の為に女の子らしくしているだけ・・・。めちゃくちゃに泣いて、ぐちゃぐちゃな格好で過ごしたくても、周りの人達はそれを許してはくれないわ・・・。私は嫌でも、『女の子らしく』しなくちゃいけなかったの・・・。」


 ヒメールの心は、この時空っぽになってしまった。空っぽにすれば、何も考えなくていい。辛い事も、嫌な事も忘れる事が出来る。空っぽのまま、只人形の様に『女の子』を演じた。


 女の子を演じ続けていると、次にヒメールに求められた物は、満たされない心の埋め合わせだった。

 誰よりも女の子らしく有り続け、知識も豊富だったヒメールに助言を求め続ける者達は、後を絶たない。恋や体の悩みだけではなく、友人や家族、生活でも悩みも相談される様になる。

 ヒメールは自分の持つ知識を、惜しみなく悩める子羊達に分け与えた。的確なアドバイスに、時には忠告。相談役と言うよりは、預言者の様だった。

 周りの者達は、ヒメールに相談をすればする程、不安な気持ちが和らいでいった。

 「何か、ヒメールといると安心する。」

 「ヒメールって、頼りになるよね。」

 そう言って、次から次へとヒメールに頼る。


 「別にどうって事は無かったわ。只自分が知っている知識を、分けてあげただけ。私はそれだけだったけど、皆は違ったみたいね。心の中の寂しさを、私で埋めようとしたのよ。」


 ある日毎日の様にヒメールに相談に来ていた女の子が、ヒメールの家へとやって来た。「泊めて欲しい。」-と言う要望に答え、ヒメールはその女の子を一晩家に泊めた。

 女の子は一晩中、ヒメールに悩みや愚痴を話し続けた。ヒメールは彼女を慰めながらも、話しを聞き続けた。

 「何かヒメールが、男の子だったらいいのにって思うわ。そうしたら、私の理想の恋人なのに。」

 女の子がそう言うと、ヒメールは「そうだね。」と笑顔で答えた。


 「それからだったわ。気付けば皆が、私を理想の男性像として見てきたの。男の子達もそうよ。男の子に合わせて遊んでみたら、僕が男だったら親友になれるのにって言うんだ。」


 気付けば周りは、口ぐちに言う。

 「ヒメールって、頼りになってかっこいいよね。」

 「ヒメールはその辺の男の子より、かっこいいわ。」

 「ヒメールが男の子ならいいのに。男の子の服を着てみてよ。きっと似合うわ。」

 そう言われ、ヒメールは男の子の洋服を着た。すると周りは、一気に盛り上がり、「そのまま男の子になって。」-と言われる。

 ヒメールは言われるがままに、長かった髪をバッサリと短く切り、男の子の服を着続けた。

 外見だけでは無い。仕草や言葉使いも、男の子っぽくする。


 「少し前までは、僕は『女の子』だったけど、一瞬で『男の子』になったんだ。それは周りがそれを望んだから。僕の心は空っぽだったし、それで構わなかった。周りが望むなら、そうするだけだった。」


 ヒメールの好きな色は青色へと変わり、日用大工もする様になった。


 「青色が好きだと言えるのは嬉しかった。大工作業も、楽しかった。元々そこまで非力では無かったからね。女の子としている時は、非力なフリをしなくちゃいけなかったから。男の子として生活をするのは、意外と楽しかったよ。でも彼女達の気持ちには、答える事は出来なかったよ。」


 男の子となったヒメールは、元々が女の子なだけ有った為に、とても美少年だった。おまけに頼りがいがあり、とても優しいので、沢山の女の子達に告白をされていた。

 しかし、体は女の子のままのヒメール。どんなに沢山の女の子に告白をされても、その気持ちに答える事等出来ない。

 ヒメールの体は女の子。だからヒメールが恋をする相手は男の子。しかしそれもまた、難しい事になっていた。

 ヒメールを男の子と見る彼等は、ヒメールに対して恋心を抱かなかった。


 「結局僕は、どちらも選べないし、どちらも僕の物にはなってくれないんだ。だって僕は『女の子』だから、女の子を好きになんてならないだろ?当然好きになるのは男の子だよ。でも男の子達は、僕をもう『女の子』としては見てくれない。僕は一人ぼっちなんだと思った。それは彼女達、彼等の要望に答え続けた結果。気付けば私は・・・自分が誰なのかも分からなくなっていた。心を空っぽにして過ごした日々が、長かったせいね。『ヒメール』と呼ばれる者は、誰なのかしら?」


 ヒメールは、ふと自分がどうして男の子の格好をしているのか、疑問を感じた。自分の体を触ってみると、確かに女の子の体をしている。しかし男の子の格好をしているのだから、自分は男の子なのだろうか。手に触れる感触は、確かに女の子の体の感触。ならば女の子なのだろう。延々と繰り返し同じ事を考えていると、ヒメールの頭の中は、突然混乱し始めてしまう。

 「私・・・?僕・・・・?どっちだっけ?」

 周りを見渡してみると、何人かの女の子達が、プレゼントを手にヒメールを囲んでいた。

 「それ、どうしたの?」

 呆けた顔で尋ねると、女の子達は恥ずかしそうな顔をしながら、プレゼントをヒメールへと差し出す。

 「ヒメールによ。受け取って欲しくて・・・。今日、誕生日でしょ?誕生日プレゼント。」

 「誕生日・・・。」

 ヒメールは一人の女の子から、そっとプレゼントを受け取ると、周りに居た他の女の子達も、一斉にプレゼントを渡し始めた。

 「私のも、私のも受け取って!」

 「私も!」

 あっと言う間にヒメールの腕の中は、プレゼントで埋まってしまう。

 「あぁ・・・ありがとう・・・。」

 少し驚きながらも、彼女達にお礼を言うと、彼女達は嬉しそうにはしゃぎ始めた。

 「友達って、いいね。こんなに私の誕生日を祝ってくれる人が居るなんて・・・嬉しいわ。」

 ニッコリと笑顔で微笑むヒメールに、周りの女の子達は、不満気な表情をさせた。

 「ヒメールは男の子でしょ?男の子のヒメールに、プレゼントをあげたのよ。」

 「え・・・?男の子なの・・・?あぁ、じゃあ僕にプレゼントをくれてありがとう。」

 もう一度ヒメールが言い直すと、女の子達は満足そうな顔をする。


 女の子達が居なくなると、今度は数人の男の子達がヒメールの元へとやって来た。

 「ヒメール、今日誕生日だろ?おめでとう。」

 「プレゼントは無いけど、お祝いの言葉だけでもって思ってさ。」

 ヒメールは目の前の男の子達をじっと見つめると、少し考えてから言った。

 「あぁ、ありがとう。言葉だけでもうれしいよ。」

 男らしく答えると、男の子達は満足そうな顔をさせる。

 (そうか・・・これでよかったんだ。やっぱり僕は男の子なんだ。)

 心の中で、ほっと安堵していると、一人の男の子が言った。

 「ヒメール、いつまで男の子ごっこしてるの?」

 「え?男の子ごっこ・・・?」

 突然の言葉に、ヒメールは首を傾げた。

 「だからさ、ヒメールはいつ女の子に戻るのかって聞いているんだよ。」

 「女の子に?・・・僕は、男の子じゃないの?」

 キョトンとした顔で尋ねると、その場に居た男の子達は、ケラケラと笑い出す。

 「何言ってるんだよ。ヒメールは女の子じゃないか。男っぽい事しているから、あんまり女の子って感じじゃないけど、女の子だろ?」

 可笑しそうに言って来る男の子に、ヒメールは顔を俯け考えた。

 (やっぱり・・・女の子なのかな?)

 

 「気付いた時には、もう遅かったわ。私はどちらなのか、分からなくなっていた。だから小さい頃を思い出してみたんだ。最初はお姫様、次は道化師、そして女の子に、男の子。それでも分からなかった。だってどれも、元々自分からなった訳ではなかったもの。周りがそう望んだからなっただけ。『ヒメール』って子は、周りが作り出した子なのよ。僕であって私ではない。ねぇ・・・じゃぁ・・・『ヒメール』って誰?これからその答えを、探しに行こう。」


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