道化師
ヒメールは意地悪をする人達に、逆に意地悪をする様になった。ずっと苛められっぱなしでは、せっかく王子様達から解放されたのに、意味が無いと思ったからだ。
そのお陰か、気付けばヒメールを虐める者は居なくなった。そしてヒメールには、同じ女の子同士の友達が出来た。
「きっと仲良くした方が、苛められなくて済むと思ったのね。」
ヒメールは女友達が出来た事がとても嬉しく、誰とでも話しをした。今までしてみたかった女の子同士の話しを、沢山した。
秘密の話し、恋の話し、男の子の話し、体の話し。
少女から少し成長をしたヒメールの体は、とても女らしく育っていた。周りの女の子達は、ヒメールの体をとても羨ましそうにしていた。
「ヒメールの手足、とても細くて長くて綺麗。」
「ヒメールは胸が大きくて羨ましい。」
「どうしたらヒメールみたいに綺麗な体になれるの?」
沢山の女の子達が、ヒメールの美しい体に興味を示していた。
それだけでは無かった。
女の子の友達が出来、嬉しかったヒメールは、前以上にとても明るかった。いつも笑顔で、誰のどんな話しでも聞く。特に恋の話しには、興味津津だった。
「ヒメールはいつも元気だよね。」
一人の女の子が言う。
「ヒメールと居ると楽しい。」
別の女の子が言う。
「ねぇ、ヒメール。もっと面白い事をしてよ。」
また別の女の子が言う。
ヒメールは彼女達の要望に答え、いつも人とは違う変わった事をやってみせた。
「彼女達が喜ぶ姿を見ると、とても嬉しかったの。彼女達を楽しませたい、その一心だけで、色んな事をしたわ。大人に怒られてしまう様な事も。でも彼女達が喜んで、楽しそうに笑ってくれるなら、私はそれだけで幸せだったのよ。」
ヒメールはリクエストがあれば、どんな要望だろうとそれに答えてみせた。時には体を張った芸をしたり、とても悪い事をしたり、頼まれれば、どんな事でもして、彼女達を笑わせていた。
「私は道化師になったのよ。彼女達がそう望んだから。恥なんて物を捨てて、道化師を演じ切った。それは彼女達がそう望んだから。そうでしょ?」
ヒメールは色んな役職をしていた。それは頼まれる要件によって、変わるからだ。
大好きな人のコレクションが欲しいと頼まれれば、商売人になる。皆で変わった遊びをしたいと頼まれれば、企画者となる。料理人になる時もあった。特に誰かの誕生日や、バレンタインと言ったイベントの時期。何でも屋だ。
「顔をころころと変えるのが、道化師でしょ?私は何にでもなったわ。彼女達の要望のままに。私は彼女達の喜ぶ姿を求める、彼女達は私に自分の欲望を求める。お互い様だと思っていたわ。でも乙女心はとても複雑で、単純なのよ。一度『恥』を知ってしまえば、それは二度と消える事は無いわ。」
ヒメールは恋を知ると、自分の行動に恥を感じる様になった。それは小さな子供の恋とは違う、ちょっぴり大人の恋。
恋する相手の前では、可笑しな事や可笑しな顔は、恥ずかしくて出来ないのが当たり前。逆に可愛らしく見せたいと思ってしまう。そのせいで、ヒメールは潮らしくなってしまった。
しかし、彼女達の要望が無くなったと言う訳ではない。
「ねぇヒメール。またあの芸やってよ。」
ねだって来る彼女達に、ヒメールはどうしたらいいのか困ってしまった。そして始めてヒメールが要求を断ると、彼女達の表情は一気に覚めてしまう。
「そんなの、ヒメールらしくいないよ。」
そう言ってつまらなさそうな顔をする彼女達。ヒメールは、彼女達の期待に答える為に、また道化を演じ続けた。
「結局私は、只のピエロだったのよ。道化師を望んだのは彼女達の方。私は只愉快に楽しく過ごしたかっただけ。だけど彼女達は、私が踊る姿を面白可笑しく見たかっただけ。小馬鹿にするのと同じ事。嫉妬とも言えるわ。私の体を羨ましがり、それで女らしく振る舞われるのが嫌だったのよ。だから道化師を望んだの。」
だからと言って、時間は止められない。ヒメールの体も心も成長をして行く。
ヒメールの体が大人へと一つ近づいた時、ヒメールは道化師を止めた。それは彼女達も、同時に大人へと一つ近づいた証拠でもあった。
「言ったでしょう?乙女心は複雑だけど単純だって・・・。彼女達は私を笑う事よりも、自分達を磨く方を選んだの。恋する春の季節・・・それは女の子なら、自然と分かるわ。目の前に美しい物があれば、小馬鹿にする前に、盗む方を優先させると・・・。それは純粋であればある程に。欲しいと願うのよ。」
ヒメールの白い肌を見た彼女達は、潮らしくなったヒメールの時の様に、そっとヒメールの周りに集まり出した。