表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

3人の王子様

 彼女の周りには、いつも三人の男の子が居た。産まれた時から側に居る、三人の男の子達は、いつも彼女の側に寄り添い、彼女を守っていた。

 「ヒメール、一緒に遊ぼう。」

 そう言って彼女を遊びに誘う。

 「ヒメール、意地悪をされたらすぐに言うんだよ。」

 そう言って彼女を守る。

 「ヒメール、して欲しい事があったら、何でも言うんだよ。」

 そう言って彼女を甘やかす。


 彼女、ヒメールにとって、彼等は小さな王子様達だった。幼い王子様達。

 子供の頃のヒメールの、王子様達だ。

 一番歳が上の王子様は、いつもヒメールの我儘を聞いてくれる。二番目に上の王子様は、いつもヒメールを遊びに誘ってくれる。ヒメールより年下の王子様は、いつもヒメールに優しくしてくれる。

 三人の王子様達は、決してヒメールに怒ったり、叱ったりをしなかった。

 ヒメールが王子様達の玩具を壊してしまっても、壊した事を黙っていた事が知られてしまっても、絶対に怒らなかった。


 「ヒメール、玩具を壊しちゃったんだね。仕方がないね。」


 王子様達は、優しくそう言うだけ。


 いつもヒメールの側には、三人の王子様達が居るせいで、他の者達はヒメールを虐めようとはしなかった。

 「ヒメールを虐めたら、あの三人に仕返しをされる。」

 そう言って怯えていた。

 ヒメールはその事を知っていた。自分の周りにいつも三人の王子様達が居るから、誰も自分には手出し出来ない。何かされれば、あの三人の誰かに言ってしまえば、必ず仕返しをしてくれる。

 ヒメールは優越感で一杯だった。まるで自分がお姫様にでもなった様な気分で、とても居心地がよかった。

 守ってくれる王子様が居る、絶対に一人ぼっちにしないでいてくれる、王子様が居る、何でも言う事を聞いてくれる王子様が居る。

 ヒメールは毎日がとても楽しかった。とても楽しく、とても満足。その時はそう思っていた。


 「でも実際は違う。彼等がそう求めたのよ。彼等は王子様になりたかっただけ。王子様になるには、お姫様が必要だっただけ。だから私は彼等の要望の答えて、お姫様になってあげていただけ。」


 確かに彼等はヒメールにとても優しかった。甘やかし過ぎな位優しかった。

 本当に、『お姫様』扱いをしていた。割れ物でも扱うかの様に、大切に、そっと繊細に、悪い事をしても叱りもせずに守るだけ。


 「一度お店からキャンディーを盗んだわ。王子様達に見付かってしまったけれど、怒らなかった。彼等は言ったわ。『欲しかったなら、言えば買ってあげたのに。今度は欲しい時は言うんだよ、買ってあげるから、もう盗んじゃダメだよ。』そう言ったわ。私は叱って欲しかったのに・・・。私が求めていたのは、王子様ではなくて、友達だったのに・・・。」


 その後もヒメールは何度か同じお店から、キャンディーを盗んだ。けれども王子様達には、内緒にしていた。心のどこかでは、見付かりたいと望んでいたけれど、その小さな願いは叶う事は無かった。


 一度ヒメールに、四人目の王子様が出来た事があった。だがそれは、他の三人の王子様達とは違う、王子様。

 ヒメールに恋心を抱いた王子様だった。

 彼はヒメール以外の者には、とても冷たかった。どちらかと言えば、周りは彼の事を怖がっていた。とても乱暴者で有名だったからだ。

 四人目の王子様は、ヒメールに恋心を抱いていたから、ヒメールにだけ優しく接していたのだ。


 「彼は本当に優しかったわ。私は好きではなかったけれど、他の王子様達とは違う優しさを感じたわ。あぁ・・・本当に大切にしてくれているんだと、感じる事が出来た。でも好きでは無かったから、嫌われる様な事をしたの。それに、三人の王子様達が怒ってしまうから。」


 四人目の王子様の存在を、三人の王子様達は好ましく思ってはいなかった。途中で割り込んで来た四人目に、いつも目くじらを立てていた。

 「ヒメール、何であいつが居るんだ?」

 「ヒメール、あいつを誘うのはやめよう。」

 「ヒメール、あいつは乱暴者で有名だから、危ないよ。」

 そう言って、忌み嫌っていた。


 不機嫌な王子様達を何とかする為に、ヒメールは四人目に嫌われようと、嫌な所を見せた。

 小さな小鳥の巣の中に居た雛を、巣から取り出し、四人目の目の前で投げ捨てたのだ。

 その日から四人目は、ヒメールの所には来なくなった。

 「ごめんなさい・・・。」

 ヒメールは、投げ捨てた雛と、四人目に心の中で何度も謝った。


 四人目が来なくなって、三人の王子様達は、また嬉しそうにヒメールを誘う。優しくし、大切にする。

 ヒメールはまた、三人だけの『お姫様』になった。


 しかしそれは子供のお話し。時が経ち、少年から青年へと成長をして行くと、三人はそれぞれ自分達の本当のお姫様を見付ける。

 本物の恋と言う物を知るのだ。

 気付けばヒメールの側には、王子様は一人も居なくなっていた。


 「だから彼等は、私に『お姫様』と言う役をして欲しかっただけなのよ。自分達が『王子様』と言う役をやりたかったから。私はそれに答えて、お姫様らしい事をしていた。我儘なお姫様を演じていたんだわ、きっと。誰も居なくなって、とても寂しかった。突然一人ぼっちにされてしまった。女の子同士で遊ぶよりも、王子様達と遊んでいた時間の方が多かったから、とても寂しかったわ・・・。」


 偶然三人の王子様の内誰かと出会っても、ヒメールに話し掛けはしなかった。


 「私はもういらなくなったの。もう私と言うお姫様はいらなくなった。でもこれで、私も王子様達から、解放されたのよ。」


 ヒメールを守ってくれる人は居なくなってしまい、ヒメールを虐める者が出て来た。だからと言って、ヒメールは元王子様達に告げ口をしたりはしなかった。

 「これは今まで、自分が意地悪をしてしまった人達への罰だ。」

 そう思い、我慢をしたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ