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短編

悪役令嬢なんて全力で拒否したい!

作者: 媛乃 暁姫
掲載日:2026/04/12



 ーー苦しいよ。辛いよ。痛いよ。

「リリ!」

「リリアーナ!」

 呼ぶ声に薄っすらと目を開けると、父と母、兄までもベッドの傍にいた。

「ーーと、さま?かぁさま⋯⋯にぃさま⋯⋯」

「ああ!リリーが目を覚ましたわ!」

「リリアーナ、もう大丈夫だぞ」

「リリ、お水飲めるかい?」

 兄の言葉にゆっくり頷くと、父が身体をそっと起こしてくれた。

「リリゆっくり飲むんだ」

 傾けられたグラスの水を嚥下すると、喉の渇きを覚えたように身体が水を求めた。

「リリアーナゆっくりだよ」

 背中を支えてくれる父。手を握ってくれる母。水を飲ませてくれる兄。

 ーーバカね、リリアーナ。あなたは大切にされ、ちゃんと愛されたじゃない。

 水を飲みきると再び頭を枕に沈め、リリアーナは朦朧とする意識の中で小さく呟いた。

「ありがとう父様、母様、兄様⋯⋯」

 襲い来る怠さと眠気に抗えず、素直に眠りの世界へと入って行った。



 体調もすっかり回復し、久し振りに湯浴みをしたリリアーナは、鏡の前で絶句した。

「ーーはっ?」

 蜂蜜を溶かしたような豪奢な髪と、神秘的な青紫色の瞳の美少女。

「⋯⋯これ」

 リリアーナ・バリシスティン。

 「聖なる乙女と七つの煌めき」というアプリゲームの、いわゆる悪役令嬢。

 このゲームは漫画化もされていて、女子の間ではそこそこ人気のあった作品だ。

 リリアーナは王太子殿下、兄ロズヴァルト公爵令息ルートで出てくるキャラだ。

「まさかの悪役令嬢リリアーナ⋯⋯」

 呆然と呟き、リリアーナはそのまま気を失った。


 この物語のリリアーナは誰にも愛されずに、愛を乞うて破滅するキャラだ。

「どうして私のことを誰も愛してくれないの!?」

 と、慟哭する姿は哀れでもある。

 ーーだが。

「リリまた倒れたんだって?まだ安心できないから、ベッドから出ては駄目だよ?」

 兄が心配そうに顔を覗く。

「リリーまだ顔色が悪いわ」

 額にそっと濡れタオルを乗せてくれる母。

「リリアーナの好きな果物なら食べられるかい?」

 瑞々しい果物を差し出してくれる父。

 愛されないキャラとは?

 思わず首を傾げてしまうリリアーナ。

 なんかこのまま過ごせば、悪役にならずに済むんじゃないかしら?


 ーーな〜んて思った日もありました!


 ゲームのようにならないため王宮を避けに避けていたら、元凶が自ら笑顔を携えて近寄って来やがった!

「初めましてリリアーナ嬢。ロズから聞いていた以上に可愛いね」

 キラキラと輝く笑顔を振りまく元凶の浮気クズ野郎。

「ぎ⋯⋯」

「ぎ?」

「ぎゃあああぁぁぁっ!」

 思わずソファの後ろに隠れた私悪くない!

「なんで?どーして?神様、私なんか悪いことした?確かに喪女だったかもしれないけど、平和に平穏に平凡に生きていたのに!それともこれが強制力ってヤツなの!?」

 ソファの後ろで打ちひしがれていると、元凶様が不思議そうに聞いてきた。

「もじょ?ってなに?」

「ひぃいいいいっ!」

 尻もちをつき、その体勢のまま後ずさる。

「酷いなぁ〜僕、君になにかした?」

 これからするんじゃボケェ!

 とは言えない。

 お願いだから関わらないで欲しい!

「お⋯⋯」

「お?」

「おに"い"ざま〜〜っ!」

 恐怖と混乱が極まって泣いた。

 そりゃもう周囲が引くくらいのギャン泣きだ。

「リリ!?」

 お茶を頼んでいた兄が慌てて部屋に視線を戻すと、泣きじゃくっている妹の姿。

「殿下!リリになにしてるんですか!?」

「え〜!何もしてないよ、まだ」

「⋯⋯まだ?何かする気満々じゃないですか!」

 慌てて兄の背後に隠れる妹。

「だって、リリアーナ嬢が婚約者候補に挙がったのにさ、君が全力で拒否するんだもん。会ってみたくなるじゃないか」

 ーーはぁ!?好奇心で人を恐怖へと落とさないで欲しいわ!

「リリは駄目ですよ!ね、リリ?」

「わ、私はお父様やお兄様のような、優しくて誠実で素敵な方がいいです⋯⋯(浮気者なんて論外ですー!)」

「あ〜もう、僕の妹は世界一可愛い!」

 抱きしめてくる兄に縋り付くと、浮気クズ野郎は肩を竦めて明らかに胡散臭いことを宣った。

「酷いなぁ。まるで僕が性格の悪いクズ人間みたいじゃないか」

 そうだよ!と言えるなら叫びたい⋯⋯。

「公爵夫妻からは良い返事がきたのに、まさかロズが反対するなんてさぁ〜」

 敵は両親かよ!

 きっと私の幸せを考えてなんだろうけど、リリアーナにとってはこの王太子殿下は地雷でしかない。

 というか、腹黒イヤ絶対!

「わ、私の望みはお父様とお母様のような仲良し夫婦です」

 リリアーナが病に倒れた後、両親の仲はそりゃあもう良好になった。

「その⋯⋯殿下にはきっと他に良い方がいると思います」

 そして私のことはサクッと忘れて、さっさとヒロインとくっつけや!

 と内心叫びながらお断りする。

 この浮気クズ野郎がさっさと片付いたら、リリアーナは安心できるのだ。

「そうかなぁ?リリアーナ嬢みたいに面白⋯⋯いや、愉快⋯⋯楽しそうとも違う⋯⋯あ、魅力的?な人はなかなかいないよ」

 おい、このクズ面白いって言ったか?

 私はお前のオモチャじゃねーんだわ。

 魅力的を疑問形にしたら意味ねーわ。

 思わずジトリと睨むと、クズ野郎は楽しそうに笑った。

「ふふっ⋯⋯これから楽しみだよ」

 ーーいやあぁぁぁぁっ!!



 それから王太子殿下のストーカーが始まった。

 学園でも年下である私の教室には来るし、近付いて来たヒロインのことを丸無視する。

 いや、ヒロイン無視とかストーリーブッチすんなし⋯⋯。

 私は平和に平穏に平凡に生きたいのよ⋯⋯。

「不快さを隠さないリリが可愛い」

 そう言って私にべったり張り付く。

 それに気付いたお兄様に回収されるのが一連の流れになっている。

 ホントどうなってんのよ!?

 ゲームでは学園で女王のように君臨してたリリアーナだが、今はクズ野郎に振り回される哀れな小兎ちゃんだ。

 最初は嫉妬混じりだった視線も、もはや憐れみに変わっている。

 ヒロインは未だに睨んでるけど。

「もうどこかに逃げたい⋯⋯」

 ぽつん⋯⋯と呟くと、周囲の女子が頭を撫でて慰めてくれた。

 優しさに目から滂沱の汗が出るよ⋯⋯くすん。

 めそめそしている間に、クラスでは「リリアーナを殿下から守る会」が発足していたのは、私でさえ知らない出来事だった。


 お願いだから神様!

 私をこの世界から逃がして下さ〜い!!


 

 


押しに押されて疲れきって結婚しそうw

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