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八咫烏  作者: 千田幸兎
2/7

討伐

だいぶ長いです。

第二話です!

ドンッ!


何かが扉にぶつかる音と衝撃が響く。だが、扉は開かなかった。


「……っ、はぁ、はぁ……」


子供をそっと床に下ろし、鍵を二重にかけた。窓のカーテンを閉め、灯りを落とす。

外は静かだった。だが、その静けさが逆に不気味だった。

子供は震えながら、自分の袖を掴んだ。


「ありがとう……」


その頭をそっと撫で、その声に自分はようやく少しだけ肩の力を抜いた。

だが、まだ終わってはいない。

 そう思った瞬間――


バンッ!!


玄関の扉が大きく揺れた。続けて、**ギィ…ギギギ…ッ!**と、金属が歪むような音。


「嘘だろ…」


振り返ると、扉の隙間から、あの異様に長い指がねじ込まれていた。鍵が、意味をなさない。


ドガァン!!


扉が吹き飛んだ。

闇の中から、あの怪物が姿を現す。天井に届きそうなほどの長身。口の穴が、まるで笑っているかのように開いていた。


「…カクレテモ…ムダ……」


子供の手を引き、家の中を駆け抜ける。廊下を曲がり、リビングを横切り、階段を駆け上がった。

後ろから、ドスン、ドスンと重い足音が迫ってくる。


「こっちだ」


寝室のドアをすり抜け、下に降り、さらに奥――風呂場に進む。

自分は子供を中に押し込み、自分も飛び込むようにして入った。


バタン!


扉を閉め、内鍵をかける。


「はぁ…はぁ……」


風呂場の中は、湿気と緊張で息苦しいほどだった。子供は自分の背中にしがみつき、震えている。

外から、ゆっくりと恐怖が近づいてくる。


コツ…コツ…


そして、扉の前で止まった。

コン…コン…

ノックのような音。だが、それは明らかに“人”のものではなかった。


「……コンナモノデ、ミヲマモッタツモリカ……?」


その声は、まるで風呂場の壁の内側から響いてくるようだった。低く、湿った声。

次の瞬間――


ドンッ!!


風呂場自体が大きく揺れた。内鍵が軋み、金属が悲鳴を上げる。


「くそっ……」


 震えた子供を背中にかばいながら、浴室の隅へと後ずさった。逃げ場は、もうない。


ドガァン!!


扉が吹き飛んだ。

破片が飛び散り、湿気を含んだ空気が外の空気と混ざり、一気に冷たくなる。怪物はやはり、その口の穴を笑っているかのように歪めている。


「……ツカマエタ……」


怪物の腕が、ゆっくりと、だが確実に自分たちへと伸びてくる。


「来るな……」


子供を守るために一歩前に出た。右手を広げ、怪物の進行を止めようとする。

 怪物が腕を振り上げる


「やめろっ!!」


 ズバッ!!


空気が裂けた。


 ビチャッ…


風呂場の白いタイルに長袖だった布をつけた腕が落ち、真っ赤な血液が飛び散る。

自分の右腕が、肘から先で切断されたのだ。

血が噴き出し、断面から白い骨と肉が見える。

だが――


……多分、僕の顔には、驚きも、恐怖も、痛みすら浮かんでいないのだろう。……


 落ちた腕と傷口が子供に見えないよう、右半身を庇い、ただ、静かに、怪物を見据える。


「……そうか」 あいつは、来なかったか…


 低く、かすれた声が漏れる。

その目は、まるで何かを悟ったように、あるいはすでに何かを捨てた者のように、深く静かだった。

 怪物は一瞬、動きを止めた。人間が腕を失ってなお、これほど冷静でいられることに、わずかに戸惑ったのかもしれない。


「……ジャマ……」


再び怪物が動き出す。

伸ばした刃物のような腕が自分の胸に伸びる。


 ザクッ……


 しかしその腕は自分に触れることはなかった。

 何かが切断する音が風呂場に響き、怪物の動きが止まる。

刀のような長い刃が伸び、怪物の体液と刀身の黒く鈍い光が頭を貫いている。 


「……ナッ……」


怪物が呻くように声を漏らす。


 バタン


そのまま怪物は前のめりになって倒れる。

その背後に、静かに立っていたのは――フードを深くかぶった人物だった。

全身を黒い布で覆い、顔は影に隠れて見えない。だが、その手には、今まさに怪物を貫いた刀の柄がしっかりと握られていた。


「怪我はありませんか?」


その声は落ち着いていて、どこか優しさを感じさせる。

自分は、血に濡れた左手で子供をかばいながら、自分らを救ったその人物を見上げた。

 だがきっと、自分の目には驚きも感謝もない。

 ただ、静かに、淡々と告げた――


「……遅いぞ尾上」


その声は、まるで日常の延長のように乾いていた。

そして、まだ血が滴っている右腕の切断面を見せながら、口元をわずかに歪めて言った。


「おかげで、半袖になっちまったじゃねぇか」


その言葉に、尾上と呼ばれたフードの人物はわずかに肩を揺らした。笑ったのか、息を呑んだのかは分からない。

だが、次の瞬間――


 パチン


 けがのない左手で指を鳴らした。

その音は小さく、だが風呂場の静寂に鋭く響いく。

まるでそれが“合図”であるかのように、空気がわずかに揺れた。

タイルの上に転がっていたはずの右腕が、まるで時間を巻き戻すかのように、ゆっくりと動き出す。血の跡が逆流し、肉が繋がり、骨が組み直されていく。


ズズ…ズズズ……ッ


音もなく、腕は肘に吸い寄せられるように戻り、何事もなかったかのように元通りになった。

 そしてさっきまで着ていた服も変化している。

黒を基調とした、尾上と同じ装束。だが、ひとつだけ違っている。

左腕の袖口――そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が輝いていた。

三本足の神鳥。その姿は、まるでこの場における二人の“格”の違いを示すかのように、静かに、しかし確かな存在感を放っていた。

 その光景を見ていた尾上が、肩をすくめるようにして言った。


「仕方ないじゃないですかぁ。俺がいたの、ここから六キロぐらい離れたところだったんですよ」


その声は、先ほどまでの優しさのある声とは打って変わっり、どこか軽く、飄々としていた。

そして、手を上げると、深くかぶっていたフードを脱いだ。

現れたのは、まだ若い男だった。人懐っこそうな目と口元にはいたずらっぽい笑み。まるで大型犬だ…


「間に合っただけマシってことで、許してくださいよぉ、隊長」


自分は、再生した右手を軽く振りながら、鼻で笑った。


「結構痛かったぞ。それに、六キロくらいなら、走れ」

「えぇ~、隊長、俺が走るの苦手なの知ってますよね」


そんな軽口の応酬の中にも、どこか深い信頼を感じさせる空気が流れていた。


「マダ…シヌワケニハ…」


 ドンッ


 怪物の声とともに風呂場に銃声が響いた。

 上半身だけ起こした怪物の胸に大きく風穴が開く。

 自分の持つ銃口から煙が上がっている銃を腰のホルスターに収めた。

 まだ死んだわけではなかったのだ。


「いつも言ってるだろ、怪物は心臓と脳を破壊しないと死なない。

ちゃんと死んだか確認してから被害者に向き合え」

「すいません…」

「今回は第三等級だった猶更注意しろ」

「はいっ」


 怪物は確実に息を止め、灰のようにボロボロと崩れ始めた。


「もう大丈夫だよ。これからはこんな時間に外で遊ばないようにね」


家の外に出て、子供と話す。 子供は必死に頷いた。


「お兄さん、私を守ってくれてありがとう! これからは夜、外に出ないように気をつけるよ。

 だから、もう元に戻すね!」


「と言っても、この子は絶対外に出なきゃなんだけどね…」

 ボソッと呟く。


「えっ?隊長、今何か言いました?」

「いや、何でもない」


 ふと、空気が揺れた。

まるで誰かが世界の“設定”を一瞬で書き換えたかのように、視界が――白く染まる。

眩しさに目を細める間もなく、風呂場だったはずの空間が、まるで幻のように消え去っていた。


良ければ、読んで、リアクションをしてもらえると嬉しいです!

(プラス感想をいただければ作者が泣いて喜びます)



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