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明日は、まだここにある

作者:科上悠羽
最終エピソード掲載日:2026/01/27
社会人2年目の莉子は、平凡な見た目と引き換えに“イヤホン”だけを武器に、J-POPで一日をつないで生きている。上司の機嫌を読み、言いたいことを飲み込み、帰宅までの酸素を音楽に借りているタイプだ。連休、同期で破綻ぎみの運動派・真白と温泉街へ小旅行に出た朝、莉子の支えだった“応援歌”が配信から消えたと知り、世界が無音になる。真白は「世界終わる?」と騒ぎつつも、次の瞬間には「終わらせない。取り戻そ」と勢いで引っ張っていく。
二人が辿り着いたのは路地裏のスナック春灯。昼なのに夜の匂いがする店で、何でも知っているママに話を聞くと、文化会館で開かれるカラオケ大会の予選に“寄付CD”が集まるらしい。会館に入るには参加するしかない。莉子は社会の空気に押され、受付の笑顔に負けそうになりながらも、真白の雑な論理と無駄な元気に押し切られてエントリーする。坂道で息を切らし、会場の“会社みたいな進行”に心を削られつつ、ステージに立つ。
舞台袖の段ボール箱から掘り出したコンピCDには、探していた曲名の気配が確かにあった。だが再生して戻ってきたのはサビの二行だけ。確定した「欲しいもの」と、触れられない現実の差に、莉子の胸はきゅっと狭くなる。ママは「本物は別口」と、強面の常連・剛さんの存在を示す。夜の春灯、圧の強い剛さんは怖いのに、娘用の飴やストラップを大事にする人だった。莉子は“本命に近い応援歌”を歌って常連の反応から情報を引き出し、剛さんの「よくやった」を勝ち取って、厳重に包まれたCDを一晩だけ預かる。
深夜、旅館の布団の上で鳴ったのはサビだけではない“完全再生”。拍手の残響、湯けむりの匂い、真白のはしゃぎ声が混ざり、曲は「消えていない」どころか、莉子の中で“守れるもの”に変わる。翌朝二人は剛さん宅へ丁寧に返却し、頭ぽんと追加の飴、そして合言葉「明日は、まだここにある」を受け取る。帰り道、配信は戻らないままでも、莉子の耳の奥には輪郭が残り、彼女は初めて自分のイヤホンを真白に差し出す。莉子は「好き」を守る手つきを、真白は莉子の揺れない基準を羨ましがりながら少しずつ真似し始める。父に電話したくなるような温度の回復も、旅の余韻として静かに残る。二人の軽口と小さな譲り合いが積み重なり、ただの同期が“相棒”へ形を変える。
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