第26話 予測と不安
「あれは白ですね」
スラムへと向かう途中、リーネはレイヴンにそう言った。
「僕も同じ感想だ。少なくとも、神父の行方不明とは関係なさそうだった」
レイヴンも同意した。それがカルド商会に直接話を聞いた二人の感想だった。
(あの次期商会長も小物という感じでしたし)
正直、もうちょっと裏があると思っていたリーネとしては肩透かしを食らった感じだった。
「しかし、まさかアリア嬢が商会長の娘だったとはね」
「ええ、どこかの貴族の隠し子かとは思ってはいましたが、まさかそういうつながりだとは思ってませんでしたよ」
「リーネ嬢はどうするつもりなんだ?」
「どうするとは?」
「アリア嬢にこのことを話すのか?」
「あー、なるほど……」
レイヴンからの質問にリーネは少し考えた。
(別に口止めもされてませんし、話してもいいですが……いえ……)
ふと、リーネは思った。
「アリアはもしかしたら知っていたかもしれませんね」
「えっ?」
よくよく、思い返してみたら、色々と思うところがある。
「さすがに考えすぎではないかな?」
レイヴンが苦笑いをしたが、リーネは首を振った。
「街に連れ出した時、アリアはカルド商会の方をちらちらと見ていました。もしかしたら、父親がいるかもと思っていたのかもしれませんよ」
「でも、それだけじゃないか?」
「いえ、例えば、あの次期商会長からの求婚を断り続けていたこともありますしね。もしかすると、アリアも一緒になるのは無理だと知っていたのかもしれませんよ」
「普通に嫌だっただけじゃないのかい?」
「それもあるかもですね。だから、ただの予測です」
リーネとしても確信はない。
ただ、仮に嫌いだったとしてもアリアだったら求婚を受け入れ、自分を犠牲にして支援を受け入れていても不思議じゃない。
そんなふうにも思えるのだ。
「まあ、帰ったら聞いてみましょうか」
結局は聞いてみないとわからない。
「おや、結局話すのかい?」
「ええ、知ってても知らなくても結局は時間の問題でしょうしね」
あの次期商会長のやらかしをカルド商会としては、放置できないだろう。
その時に動くのは商会長自身だ。きっと近いうちにアリアと対面することになるのは予想できる。
「心構えをしてあげるのも優しさではないですか?」
「……単純に反応をみたいだけだろう?」
「おや、失礼な。そのとおりですが」
はははと笑いながら、リーネとレイヴンはスラムへと戻った。
行方不明事件についてはなんの進捗もなかったが、アリアについて知れてなんとなくすっきりとした気持ちでいたリーネ。
しかし、そのすっきり感は長くは続かなかった。
「……」
教会の前にたどり着いたリーネは、ふと違和感を覚えて立ち止まった。
「どうかしたのかい?」
問いかけてくるレイヴンを放置して、リーネは急いで教会の中へ入った。
「……人の気配がありません」
教会の中は静まり返っていた。子どもたちの姿もない。
教会は孤児院も兼ねている。そこには多くの子ども達がいる。
それなのに、音一つしないのはどう考えてもおかしい。
「レイヴン様……」
「見てくる!」
リーネの言葉を最後まで聞くことなく、レイヴンは教会の中へ駆け込んでいった。
「……」
遠くから聞こえてくるのはレイヴンの足音だけ。
静けさに包まれた教会の中で、リーネは自分の心になんとも言えない違和感を覚えた。
(……不安……そうか、これが不安というやつなんですね)
意識をしたら、段々と感じてくる心の空虚感。
(まるで、心の中にぽっかりと穴が開いたような感じですね)
なんとなく立っていられなくなったリーネは、大きく首を振って、教会の外へ出た。
リーネ自身は気が付かなかったが、それは何かを求めるような動きだった。
「ワォン!」
ちょうどその時だった。
遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。
顔を上げてみると、一匹の見覚えのある子どもの犬の魔物が、フラフラになりながらもリーネに向かって走ってきていた。




