第24話 推理と半月
リーネとレイヴンは、商会内にある応接室でカナックと向かい合って座った。
「さて、インタビューとのことですが……」
早速、カナックが話を切り出した。当初の予定だと、軽くレイヴンが雑談をした後に、リーネが質問をする流れになるはずだった。
「では、私の方から、早速なのですが……」
その予定を覆すように、リーネが口を開いた。
「アリアはひょっとしてあなたの娘ではないですか?」
「「は?」」
リーネの言葉に、カナックどころかレイヴンまでもが呆けてしまった。
しばらく十秒程度、二人は呆けたままだったけれど、カナックが先に我に返った。
「娘、ですか? えっと、なんの話でしょうか」
意味がわからないといった感じで首をかしげるカナック。
それはとても嘘を言っているようには見えない。
「ご安心を。別に私はそれであなたを非難するつもりはありません。なんとなく推理がついたので、確認したかっただけです」
「推理?」
今度はレイヴンが首をかしげた。
「ええ、ではひとつひとつ確認をしていきましょうか」
「いったいなんのことか、私にはさっぱりですが……聞きましょう」
カナックが姿勢を正したのを見て、リーネは話を続けた。
「まず、アリアという少女を知っていますね? いえ、知らないとは言わせませんよ。カルド商会がスラムの教会に支援をしているのは間違いないのですから」
「……ええ、あのスラムにある教会の子ですよね? 私は顔を合わせたことはありませんが、息子から話はよく聞きますので」
「息子……まあ、その話は後でしましょう。確認をしますが、支援をしているのは商会の方針ということですよね?」
「ええ、慈善事業の一環として、少しでも子どもたちの助けになればと」
「いいと思いますよ。やらない善よりやる偽善とも言いますし」
「はは、その言い方だと、私たちの支援が偽善のように聞こえますがね」
カナックは苦笑した。
「まあ、目的が違うという意味では偽善かもしれませんがね。本命はアリアという少女を支援するためだけなのですから」
「……それが先程言っていた娘というのに繋がると? つまりあなたは私がその子の父親だと言いたいのですか?」
「ええ。その通りです。いやぁ、良かったですよ。本当はあなたの息子がアリアに求婚しているのが商会の方針かと思って聞きに来たんですがね」
「はぁ!? 求婚!? ヘイクがですか!?」
リーネの言葉に、カナックは驚愕した表情を浮かべた。
「良かった。さすがにそれが商会の方針ということではないんですね。まさか自分の娘と息子を結婚させようとなんて思うほど業が深くなくて助かりました」
実はリーネはここだけが一番心配だったのだ。
「ヘイクが求婚なんて私は聞いてませんよ」
「ええ、聞いていたら間違いなく止めますよね。とりあえず、それだけでも今日来た価値はあったかと」
それはさておきと、リーネは話を続けた。
「アリア曰く、彼女の母親は結婚を許されない立場であったそうです。身分違いということでしょうかね? おそらくメイドでもしていたんじゃないですか?」
「……」
「そして、ジャスパーからも聞いています。あなたが若い頃に大変モテたということ。しかし、とあるメイドにご執心だったということを」
「……続けてください」
先程の求婚の件で混乱していたのが落ち着いたのか、カナックは真剣な表情でリーネを見つめた。
「商会長とそのメイド、うん、貴族ほどではないですが、身分違いでしょうね。ましてや、当時はカノーネ伯爵家の傘下に入ろうとしていた時期ですからね」
要するに商会長は政略結婚をしなければならなかった。
「まあ、それでも愛は止められないと。いい言葉ですね。メイドに子どもができていなければの話ですが」
それをカナックが知っていたのかはわからない。でも、おそらく知っていたのであれば、今の状況にはなっていなかったのではとリーネは考えている。
「しかし、リーネ嬢、確かに状況的には怪しいかも知れないけれど、根拠がないように思えるぞ?」
黙ってしまったカナックの代わりにレイヴンが尋ねてきた。
「ああ、そうでしたね。私があなたがアリアの父親だと確信した根拠は、あなたがつけているペンダントです」
先程ちらりと見えたそれ。カナックは観念したようにペンダントを懐から取り出した。
「半月のペンダント……?」
「随分とロマンチストですね。半月と半月を組み合わせて一つになるペンダントなんて」
カナックがつけているペンダントは、アリアがつけているものをちょうど反対にしたような形状をしていたのだった。




