第8話 遺体と推理
「察するにあれが穢というものなのかと思います」
「ええ、聞いた限りだと間違い無いでしょう。まさか僕が到着するまでにそんなことがあったとは」
リーネが穢を浄化したことを聞いて、レイヴンは頭を抱えた。
「死神に就任して即座に仕事を全う。どうやら私は死神に向いていたみたいですね」
「確実に対処できている辺り……ある意味それは正しいかも知れないけど……」
レイヴンは顔を上げると、リーネを見るなりため息をついた。この奴隷、随分と失礼である。
「私が昏倒したのもそれが原因なのでしょうか?」
「その可能性は高いかもしれないね。穢に近づいた人が意識を失うというのは実際に事例としてあるし」
「ふむ……」
リーネはそれを聞いて少し考え始めた。何かが引っかかった気がしたのだ。
「しかし、リーネ様が穢を浄化したのであれば、これでもう解決ということですわよね! さすがリーネ様ですわ!」
そんなリーネのことを褒め称えるノエラ。しかし、レイヴンは首を振った。
「いいや、そういうわけにはいかないんだよ。確かに一時的には収まるかもしれないけれど、まだ問題は残っているよ」
「そうなんですの?」
「確かに穢は浄化されたよ。でも、穢の元となった遺体がまだこの世に残っている限り、また同じことが起きる可能性があるんだ」
「……またあの黒い影みたいなやつが発生する可能性があると?」
リーネの問にレイヴンは首を振った。
「さっきも言ったように、人型の穢は特別な場合にだけ発生するんだよ。普通の穢は本当に単なる煙みたいなもの。しかも、たいていの人は見ることすらできない、空気みたいなものだね」
「それは随分と呼吸がつらそうな空気ですね」
まさに毒という表現がぴったりというところか。
「人型が発生するのは、魂が残っている場合だけなんだ。そして、魂がその場に残るのには、強い感情が残っている場合だけなんだ」
「強い感情……私にはわかりませんね」
リーネは首をかしげた。察することはできるけど、理解はできないものの一つだ。
「リーネ様は……そうでしょうね。察するに誰かに殺されたりとかでしょうか?」
そんなリーネに助け舟を出すように、ノエラが口を挟んできた。
「うん、それも大きな理由の一つだね。もちろん、それだけではないけれど」
「悲劇的な死に方をした場合は、残りやすいということですわね」
「そういうことだね。その場合、穢はその魂の強い感情に同調するように形を持ち、より強力な悪意を持って人に害を及ぼすことになる」
「そういえば私は普通に襲われましたね」
思い出すのは圧倒的な殺意。というか、死神になっていなかったら確実に殺されていただろう。
「君があの場にいて良かったというべきか……もっと遅かったら被害はもっと拡大したかもしれない」
それだけは良かったとレイヴンは息を吐いた。
「ふむ、つまりまとめると、人の魂が残っていない遺体でも放置しておくと、通常の穢が発生するということですかね?」
「そういうことだね。すぐにというわけではないけれど」
だからレイヴンは解決はしていないと言ったのかとリーネは納得した。
「しかし、その肝心の遺体はどこにあるのかしら? 旧校舎には何回も忍び込んでいるけれど、そんなの見たことがありませんわよ」
不法侵入常習犯のノエラがそう言うのだから、すぐに見つかるような場所に遺体はないのだろう。
「そもそも、あの旧校舎は今の校舎に移動する前に一度全体を見ているはずだ。そんな遺体が残っていたらすぐにわかるはずだ」
「しかし、穢は間違いなく発生している。しかも強力な魂付きの穢です」
「そう、近くにあることは間違いないと思うんだけど……」
まったくわからないと首をかしげるレイヴンとノエラ。
「……」
リーネは二人の会話を聞きながら、今までの状況の整理を行っていた。
そして、
「間違いないでしょうね」
リーネは一つの推測をした。




