第17話 家と価値
「リーネ様! おかえりなさいませ」
「ええ、ああ、一応ジャスパーに声をかけてくれますか?」
リーネがミゼリオール邸の前に到着すると、早速門番が声をかけてきた。
この門番は先程もリーネを迎えた門番だった。
「了解いたしました」
門番はリーネにそう言うと、邸宅の中へと急いで走り去っていった。
「というわけで、ここが我が家です。もっとも、私は今、ここには住んでいないんですけどね」
そう言ってアリアの方を見ると、アリアはミゼリオール邸を見上げて固まっていた。
「……神よ」
何やら小さくつぶやきながら、手を握って目をつぶっている。
「別に家の大きさで神かどうか決まるわけではないと思うんですけどね」
「リーネ嬢の場合は、否定できないのがまた……」
アリアの後ろにいるレイヴンが苦笑いをしている。
「家の価値で言うのであれば、レイヴン様の家の方がよほど大きいでしょう?」
「大きさ的には対して変わらないんじゃないかな? 歴史的にはミゼリオール家のが古いだろうし」
「ああ、そういえばそんなことを習った気がしますね」
ミゼリオール家は一応、この王都ではかなり古い家系に入る。
だからこそ、そう簡単に取り潰すというわけにもいかなかったということらしい。
「さて、こんな雑談をしている間にもアリアはそろそろ正気に戻って欲しいのですが?」
アリアの顔を覗き込んでみると、まだ目を閉じたままだった。
「アリア。しっかりしましょう。家がどうこうで人の価値は測れない。そうでしょう?」
「……ぁ……そう、ですね」
リーネの言葉が響いたのか、アリアはゆっくりと目を開けた。
「ふぅ……人の価値はその人自身のものです」
先程固まっていた人とは思えないほど、しっかりとした口調でアリアは言った。
「さすがシスターですね。まあ、これは人の間での話ですけどね」
「あ……」
アリアはリーネの言葉に、どうやらリーネがどういう存在であるかを思い出したようだ。
「まあ、その辺りも含めてお話ししましょう。ちょうど迎えも来たようですしね」
リーネが振り返ると、ちょうどジャスパーが迎えにきたところだった。
「リーネ様。そちらのお二人はお友達でしょうか?」
「ええ、友人のレイヴン・ガレンティ様とアリアです」
レイヴンの名前を出すと、ジャスパーは一瞬眉をぴくりとさせたが、すぐに頭を下げた。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました。私、ミゼリオール家の執事をやっております。ジャスパーと申します」
「ジャスパー。僕はレイヴン・ガレンティだ。よろしく頼む」
「あ、アリアです! リーネ様にはお世話になっております!」
レイヴンは慣れたように挨拶を返し、アリアは緊張しながら頭を下げた。
「レイヴン様とアリア様ですね」
家名がないことからアリアが貴族ではないことに気がついたのだろうけど、ジャスパーはそれを表に出すことはなかった。
「おっと、こんなところで立ち話はいけませんな」
「そうですね。お二人共、中へ行きましょう」
リーネはそう言うと、アリアの手をガッツリと掴んで家の中へと歩いていく。
「リーネ様!?」
「ほぉ……」
「ははっ」
三者三様の反応を見て、リーネはなんとなく楽しい気持ちになるのだった。
「というわけで、改めて、私はリーネ・ミゼリオールです。一応、ミゼリオール侯爵家の次期当主をさせられています」
「レイヴン・ガレンティだ。僕もガレンティ侯爵家の次期当主ってことになっているね」
ジャスパーに部屋に案内されたあと、向かい合って座ったところで、改めて名乗るリーネとレイヴン。
「侯爵様!?」
アリアは驚愕の表情を浮かべた。おそらく想像していたよりも遥かに高い身分だったのだろう。
「まあ、ですが、気にすることはありませんよ。身分をたてに何かするつもりはありませんから」
「僕の方もそうだね。というか、それどころじゃないというか……」
レイヴンは苦笑いをしている。
「そうですね。そっちの方もちゃんと話しましょうか」
リーネはにやりと笑って立ち上がる。
その瞬間、リーネの身体から黒い煙が吹き出し、リーネの姿が変化をした。
「おっと、鎌が邪魔ですね」
リーネの姿は黒いローブに背中に大きな鎌を背負った死神の姿になっていた。
「というわけで、私は死神もやってたりするんですよ」
頭にかかっていたフードを外し、リーネはにやりと笑う。
そうして、それを見たアリアの反応は……
「……神よ」
先ほどと同じように、アリアは手を握って目を閉じたのだった。
「さっきと同じですね」
「今回は間違っていないけどね」
そんな様子をリーネとレイヴンは微笑みながら見守るのだった。




