第16話 悪癖と入場
「ここが王都……」
アリアが輝いた目で周囲を見回す。
先程まで不安そうにリーネの手を握っていたアリアは、今はすっかり初めて見る王都の町並みに心を奪われていた。
(新鮮な反応ですね。連れてきた甲斐がありました)
リーネはそんなアリアを微笑ましく見守るのだった。
きっかけは、仲よさげなアリアとレイヴンを見守るのにも飽きて、リーネが状況を確認したことだった。
「ふむ、それで、迫られているところをレイヴン様が助けてくださったと」
「はい、レイヴン様がいなかったら、どうなっていたか……本当に感謝しております」
顔を赤らめたアリアがレイヴンに頭を下げた。
「いったいどういう感じで助けたんでしょうね?」
からかうようにリーネはレイヴンを見る。
「普通に助けただけだよ。随分と強引に迫っていたように見えたから現実をわからせてやっただけさ」
涼しそうにするレイヴン。実際、レイヴンにとってはあの程度は小物でしかない。
「いえ! すごく頼もしかったです!」
それでも、アリアから見るとレイヴンは見た目も相まって王子様のようにでも見えたのだろう。
「仲良くなったようでなによりですが、そんなに強引だったのですか?」
「そうだな……」
レイヴンが気まずそうに目をそらした。
「私が身を捧げなければ、支援を打ち切るなど……」
「あー……なるほど、確かにそれは強引ですね」
おそらく、神父がいないという状況を把握していての、強引な手段だったのだろう。
支援がないと、教会の子どもたちの生活が成り立たないだろう。
「それでレイヴン様はどうしたんですか?」
「ひとまずは諌めただけだよ」
「つまり、教会の状態は改善されていないと?」
「そういうことになるね」
おそらくレイヴンが自分の名前を出せば、即座に解決できる問題だろう。
それはリーネも同じだ。
リーネはちらりと、レイヴンを見るとレイヴンもリーネを見てきた。
(そうですね……そろそろ覚悟を決めないといけないかもしれませんね)
アリアを助けるのであれば、自分たちの身分を明かす必要がある。
あとは決めるだけ。
(迷う必要はありませんね)
そもそも隠しておいたのだって、必要がないからというのが八割以上の理由だったのだ。
今更身分を明かしたところで、アリアの反応はきっと何も変わらない。
(というか、正直、わかっていて聞いていないだけの気がしますしね)
リーネやレイヴンが貴族であることなんてそれはもう見ればわかることなのだ。
(私たちが対応を変えなければいいだけです)
そう結論づけてリーネはアリアにすべてを話すことに決めた。
(しかし、そうなれば色々と驚かせたいですね)
どう明かしたらアリアの面白い反応を見れるか。
エンタメ性と言えば聞こえはいいが、リーネの悪癖だ。
「アリア、私はあなたのことを友人だと思っています」
「リーネ様? はい。えっと、ありがとうございます?」
急に言いだしたリーネにアリアは戸惑ったようにお礼を言ってきた。
「そして友人からもう一歩関係を進めたいと思っています」
「えっと? 友人以上とは……」
アリアは不思議そうに首をかしげている。
「というわけで、アリア。私とデートしましょうか」
「……ぇ」
アリアが固まった。
その様子をリーネはにやにやした顔で見る。
「はあ……」
そうして、レイヴンはそんなリーネのことを見て、ため息を付いた。
また、なにか変なこと言い出したとでも思っているに違いない。
「……ぇええええええええええ!」
しばらくの間内容を咀嚼していたアリアだったが、大きな声を上げたのだった。
「さあ、行きますよ」
返事も聞かずにリーネはアリアの手を掴んで教会から引っ張り出した。
そうして、手を繋いだままで王都の中へ入ってきたのだった。
ちなみに、王都の中に入る入場料は必要なかった。レイヴンが何やら一声するだけで、門番は何も言う事なく通ることができた。
「さあ、王都探索……もとい、デートへ行きましょうか」
「あ、そういえば、デートって……」
アリアはリーネに握られた手を見て、顔を赤らめた。
「私の家に案内しますよ」
そう言ってにこやかに微笑んだリーネ。
「は、はい……」
対して、アリアはぎこちない笑顔を浮かべたのだった。




