第12話 穴とペット
こどものご飯を用意しないといけない時間になったということで、アリアとの話は一旦終了となった。
もっとも、調査というには最後はほぼほぼ雑談になってしまったのだが。
(レイヴン様はどこへ連れて行かれたのでしょうか?)
一人になったリーネはのんびりと教会の外へ出た。
それほど遠くへは行っていないはずだろうと考えて、周囲を見回す。
すると、ちょうど教会の裏の方あたりから声が聞こえてきた。
その声に従って歩いていくと、しゃがみこんだ子どもたちとその後ろに立っているレイヴンの姿を見つけた。
(何をしているのでしょうか?)
見たところ、なんとなく空気が重く、遊んでいるような雰囲気ではない。
中には悲しそうに涙を流している子どもたちもいる。
さすがに邪魔をするのは気が引けたので、ひっそりとレイヴンの背中に近づく。
レイヴンはすぐにリーネの存在に気がついたようで、振り返った。
「リーネ嬢、話は聞けたのかい?」
「ええ、それなりに」
実際はほぼ雑談だったのだけれども、リーネは自信満々に答えた。
「そうか、あとで色々と聞かせてくれ」
「ええ、話せることは限られますけどね。それはそうと……」
リーネはわざとらしく、子どもたちに目を向ける。
「どういう状況でしょうか?」
近づいたことでおおよその状況は推測できたが、きちんと確認をしておく。
「見ての通りではあるが……昨日の魔物に襲われた件でな、どうやらペットが死んでしまったらしくてな」
しゃがみこんだ子どもたちの中心には、小さく掘られた穴。そして、その中には犬らしき生き物の姿があった。
「犬ですか」
「いや、どうやら子どもの犬系の魔物らしい」
「魔物?」
亡骸を見た限りでは、普通の犬にしか見えない。
「ほぼ、犬のような感じだったらしいぞ。長い事飼っていたらしくて、本当に普通のペットのように可愛がっていたみたいだ」
それは子どもたちの悲しみも大きいだろう。
「それをレイヴン様が手伝っていたのですか?」
「うん、穴を掘るのを手伝っていたんだ」
「そうですか。お優しいことですね」
ペットを飼ったことがないリーネには、彼らの悲しみはわからない。
そもそも、リーネは悲しみの感情が薄いのでそれ以前の問題ではあるが。
「そういえば、このことはアリアには話したのですか?」
「いや、どうやら隠れて飼っていたらしくてな……聞いたところによると、昨日もペットと散歩しているところを魔物に襲われたらしい」
「なるほど、昨日、そのペットの姿が見えなかったのは先にやられたからですか?」
「ああ、それで悲鳴を上げたところにアリア嬢がやってきたとのことらしい」
アリアが来たところで既にペットはやられていたということらしい。
つまりアリアはペットの姿を一度も見ていない。
「……こういうのは得てして、隠れてペットを飼っているというのはバレているものだと思いますがね」
「そうかもしれないね」
気がついていて、知らない振りをしたのかもしれない。
(想像でしかありませんけど。アリアだったらそうしそうではありますね)
「……おや?」
と、そこでリーネは子どもたちの一人の足元に何かいるのに気がついた。
「あれもペットですか?」
それは穴の中に埋められたペットとほとんど同じような姿をしている。
「ああ、どうやら二匹飼っていたらしくてな。そちらは無事だったらしい」
「なるほど」
見たところ双子のように良く似ている。子どもたちと同じように悲しそうに穴の中を見つめていた。
「スラムに魔物がやってくるというのは良くあることなんですか?」
「いや、それほど多くないらしいよ。特に昨日のように大型の魔物が来ることは滅多にないことらしい」
「逆に言うと小型の魔物であれば、来ることもあると」
「うん、そもそも、スラムまで迷い混んでくるのは、近くの森から追い出された魔物くらいだろうからね」
「ああ、縄張り争いに負けたという感じですか」
魔物の世界も世知辛いらしい。
「生き残ったところで、人間に飼われ、それでも結局魔物にやれる……どの世界も過酷ですね」
そういうところは人間の世界とあまり変わらないのかもしれない。
スラムに生きる子どもたちと魔物たちの姿を見て、リーネはそんなことを考えたのだった。




