第10話 秘密と信仰
「アリアを連れてきましたよ」
教会の外までアリアを案内したリーネは、子どもたちの前に立った。
「何か相談があると聞いたのですが」
「えっ? あ……」
アリアの言葉に子どもたちは顔を見合わせた後、カイルが一歩前に出た。
「うん、お姉ちゃんに相談があったんだけど、大丈夫になったから。ねっ?」
カイルが振り返って他の子どもたちにも確認をすると、全員が頷いた。
「う、うん!」
「もう大丈夫だよ!」
子どもたちは元気よく答えた。
その間に、カイルがリーネをちらりと見て頷いた。
(空気の読めるいい子たちですね)
もちろん、最初から相談なんてない。
単にアリアをあの場所から連れ出すための方便だった。
そして、子どもたちもそれに気がついているみたいだった。
「そうなんですか? 一体なんの相談だったのでしょう?」
アリアは不思議そうに首をかしげている。
「お姉ちゃんには秘密だよ」
「秘密秘密!」
「あははは!」
子どもたちは何やら秘密と言っていたら楽しくなったのか、笑い始めてしまった。
「あらあら」
アリアの周りを取り囲んで笑う子どもたちを見て、アリアは困ったように微笑んだ。
ちらりと振り返ると、教会の中には既に先程の若者の姿はなかった。
(さすがにこの子どもたちの中で話しかける勇気はないみたいですね。まあ、仮にそんな勇気があっても私がシャットアウトしますが)
煽り文句も考えていたのを少し残念に思いながらも、子どもたちに囲まれて幸せそうなアリアを見て、リーネも思わず微笑んだ。
「それでは、改めて少しお話を聞きたいのですが」
しばらくした後、リーネはアリアと教会の中へ戻ってきた。
食卓のようなところに二人座って話を始めた。
ちなみに、レイヴンは子どもたちに連れて行かれてしまった。
どうやら本物の騎士ということで、子どもたちから憧れのようなものを抱かれているようだ。
おそらく今頃騎士ごっこをして遊んでいるのだろう。
「昨日も聞いたことの繰り返しになるのですが、行方不明になった神父について何か心当たりはありませんか?」
「うーん、そうですね……やはり街に行くと言ってそれ以降は帰っていないことくらいしか……」
アリアも頑張って思い出そうとしている感じはするのだが、なかなか思い出せない様子だ。
そこでリーネは質問を変えてみた。
「そもそも、その神父とやらはどういう人だったんですか? 昨日は他国から来たようなことを言っていたと思うのですが」
自分で教会を作って神父になるような人がなぜ他国までやってきてスラムにいるのか?
「そうだ、そもそもこの教会はなんの神様を信仰しているのでしょう?」
リーネの言葉にアリアは少し困ったような顔をした。
「えっとですね、この教会では癒やしの神様を信仰しています」
「癒やしの神様ですか。私とは相性が悪そうですね」
「えっ、あっ! で、でも、別に他の神様を信仰していないわけではなくて、あくまでも祀る対象として癒やしの神様を中心にしているという感じですから!」
慌てたようにアリアが付け加えた。
その理由もわからなくはないが、リーネは深く追求はしなかった。
「神父様も元々は別の神様を信仰していたようですし。そこまで排他的な教義ではありませんので」
リーネが黙っていると、アリアがさらに付け足してきた。
「大丈夫ですよ。なんの神様を信仰していようと、それで態度が変わることはありませんから」
リーネは笑って手を振った。
「それよりも、別の神様ですか? 信仰を変えるなんてことはあるんですか?」
そちらの方が気になった。
「はい。神父様は自分は過去に罪を犯した。それを償うために今は人を助ける活動をしているのだとおっしゃっていました」
「罪を犯した?」
「はい……詳しくは聞くことができませんでしたが。それで今は癒やしの女神様を信仰しているらしいです」
ただの信徒ではなく、神父までなる人が信じる神様を変えるようなことをするのはよほどのことではないか?
その理由はもしかしたら、今回の行方不明事件に繋がっているのではないか?
リーネはそんなことを考えながらアリアの話を聞いていたのだった。




