第8話 奇遇と理由
スラムを訪れた次の日、リーネは学校の授業が終わると、即座に教室を出た。
早足で廊下を抜けて、校舎の外へ、そのまま一直線に校門へと向かう。
「……おや?」
校門の前に、見たことのある姿が立っていることに気がついて、頬を緩めた。
「レイヴン様、奇遇ですね」
「リーネ嬢……来ると思っていたよ」
リーネの姿を見るなり、レイヴンはため息をついた。
「そんなにため息をついて、幸せが逃げますよ?」
言いながらリーネはレイヴンの横をすり抜けていく。
「そう言うのならば、せめて一声はかけてほしかったな」
レイヴンは当たり前のようにリーネについてくる。
「ふふっ、その様子では私がどうするつもりかはわかっていたようですね」
「ああ、できれば当たってほしくなかったが……スラムに行くつもりだろう?」
「もちろんです」
リーネは振り返ってニッコリと微笑んだ。
「はぁ……確かに君のことを心配するのはおこがましいかもしれないがね。それでも一人で行動するのは危険だと思うのだが」
「一人じゃありませんよ? あなたがいるじゃないですか」
「いや、これは僕が君の行動を予測したからで」
「そうですね。では、その私もあなたの行動を予測したとは考えられませんか?」
「あー……なるほどね……僕はまんまと君の予想に嵌まったわけだ」
レイヴンは苦笑いをしながら頭をかいた。
「ふふっ、そういうことですよ。むしろ、いなかったらペナルティでしたからね」
「それは良かった……」
レイヴンはほっと息をついた。
「さあ、それでは改めて向かいましょうか」
「うん、アリア嬢もきっと待っていることだろう」
こうしてリーネとレイヴンは再びスラムへと向かうのだった。
王都の門を抜け、スラムの中へと入っていくリーネとレイヴン。
「さすがに今日は悲鳴は聞こえませんね」
「ジロジロと見られてはいるみたいだけどね」
スラムの中を二人で歩いていくと、どこからともなく不躾な視線が飛んで来る。
「昨日も感じましたよ? 誰かさんが私を置いて行くからその間は特に」
「あー、それに関しては……申し訳ない」
レイヴンは申し訳なさそうに頭をかいた。
「悲鳴が聞こえたことでつい足が動いてしまった」
その結果がリーネを一人置いていくことになった。
「まったく、か弱い女性をスラムで一人にするなんて、とんでもないことですよ?」
「か弱い女性はそもそもスラムに来ないと思うが……」
「ははっ、それはそうかもしれませんね」
もちろん、リーネ自身、自分がか弱いなんて思ってはいない。
「か弱いというのは、アリアみたいな女の子のことを言うのでしょうね」
自分とは対極にいるような子を思い浮かべて、リーネは微笑んだ。
「……随分とあの子のことを気に入っているようだね」
レイヴンは少し不思議そうな顔をしながらリーネを見つめた。
「そうですね。私としては珍しく興味を覚えた子ですから」
「昨日初めて会っただけだろう? なんでそこまで気に入ったんだい?」
どうやらレイヴンとしては、リーネがそこまで興味を持つ理由がわからないらしい。
「そうですね……あの子は、なんというか、表と裏がない気がするんですよ」
リーネは少し考え込んだ後に答えた。
「ご存知の通り、私は人の観察をするのが好きですからね。行動の予測とかもするのですが、あの子の行動はまさに私の予測どおりなんですよ」
「なるほど?」
「それでいて、誰かと違って違和感がないというのが凄いですね」
その誰かというのは、まさに目の前にいる存在のことだ。
「……君がそう言うのであれば、そうなんだろうな」
レイヴンは少しバツが悪そうに笑った後、頷いた。
「で、あるならば私の方も彼女のことを信用するとしよう」
「ええ、私の勘を信じればきっと救われますよ」
リーネは自信満々に微笑んだのだった。




