第7話 神父と拠点
「先程、子どもたちからも現在の大人はシスターアリアだけだと聞きました」
リーネの言葉に、シスターアリアは少し俯いた。
「はい。元々この教会はローガンという神父様が一人で管理しておられました。そこに母を亡くした私を迎え入れてくださったことがきっかけで、子どもたちが集まってくるようになったのです」
「なるほど……あ、そういえば、聞いていませんでしたが、シスターアリアはいくつになるんですか?」
「えっと、今年で十六歳になりますね」
歳が近そうとは思っていたが、同じ歳だったようだ。
「そうですか。私も今年で十六になります」
ここでリーネはやっと名前を名乗っていないことを思い出した。事情だけ話して自己紹介はまったくしていなかったのだ。
「私はリーネ……です。良ければアリアと呼んでもいいですか?」
フルネームで名乗ると萎縮されるかもしれないと思い、あえて家名は抜きにして自己紹介をした。
「リーネ様。はい。好きにお呼びください」
少し変な間が開いたリーネの自己紹介を気にすることなく、シスターアリア、改め、アリアは薄く微笑んだ。
「あ、ちなみに後ろのはレイヴン様です。私の……まあ、友人みたいなものと思ってください」
「よろしく頼む。僕はシスターアリアと呼ばせてもらおう」
「……レイヴン様……はい。よろしくお願いいたします」
いつもの王子様スマイルで微笑んだレイヴンに、アリアは頬を赤く染めた。
(これは堕ちたかもしれないですね)
レイヴンはいつも通りなのだが、相変わらず破壊力が高い。
「それで、そのローガンという神父がいなくなったということですが……」
話は逸れたがもとに戻そう。
「はい。街に出かけてくるとだけ言い残して、かれこれ三ヶ月ほど戻っていないのです」
「三ヶ月ですか」
「ええ、たまに一日二日留守にすることはありましたが、こんなに長く戻らないことは初めてです」
「それは心配ですね」
正直、三ヶ月も戻らないのは、よほどのことがあったのは間違いない。
(死んでいる可能性もあるでしょうけど、それは信じたくないのでしょうね)
指摘してもいいけれど、さすがに酷だろう。
「そうですか……街に行くと行って消えたんですよね?」
「はい」
「街……ということは王都のことでしょうかね? スラムから王都に入れるんでしょうか?」
ちらりとレイヴンを見ると、首を縦に振った。
「スラムから王都に入るためには、入国税を払わなければならないはずだ。逆に言えば、お金さえ払えば普通に入れる」
「なるほど……」
「神父様は他国からやってきたと言っていました。その時の貯金を切り崩しているとも……」
「お金はあったと……そうなると、王都の中に入った可能性は十分ありますね」
「それなら、王都の方で何か手がかりがあるかもしれないね。僕の方で調べてみるよ」
レイヴンが力強く頷いた。それこそレイヴンの得意分野だろう。
「よろしいのですか?」
「ええ、その神父さんを調べることで我々の目的にも近づける可能性がありますからね」
リーネたちにもメリットがある。
「そうですか……よろしくお願いいたします」
アリアは深く頭を下げてきた。
「代わりと言ってはなんですが、お願いがあるのですが」
「はい。なんでもおっしゃってください」
この教会を見たときから考えていたことがあった。
「この教会を私たちの活動拠点にしても良いですか?」
「活動拠点……ですか?」
「はい。私たちがスラムを調査する時にちょうどいいと思ってまして」
「なるほど……私としてはかまいませんが……お邪魔にならないでしょうか」
苦笑いをしながらリーネの後ろに目を向けるアリア。
その視線の先には、こちらを扉の外からこちらの方をじっと見つめている子どもたちの姿があった。
「言い聞かせることはできますが、なにせ、子どもなので……」
「それは、まあ大丈夫でしょう。むしろ、子どもたちだからこそ掴める情報もあるかもしれませんからね」
子どもは大人が思っている以上に周りを見ている。それを侮るべきじゃない。
「そういうことであれば……ご自由にお使いください」
こうして、リーネたちはスラムでの調査拠点を手に入れることになったのだった。




