第6話 遺体と行方不明
「なるほど……食べ物は自分たちで育てているんですね」
「はい……あの、自分たちじゃ買えないので……」
リーネとレイヴンは、改めてカイルに孤児院の中を案内してもらっていた。
(外から見ても立派な建物でしたが、こうして中庭まであるとなると思っていたよりも大きいですね)
こうしてスラムの中にあるとは思えないほど立派な建物だ。
だからこそ、スラムに住む子どもがほとんどここに集まっているらしい。
そして、今現在、その面倒を見ているのが例のシスターの女の子、シスターアリアだけらしい。
一応、カイルなどの年長者はいるけれども、それでも年齢を聞けばまだ十歳にも満たない。
実質大人の役割をできるのはシスターアリアだけとのこと。
「もし、お姉ちゃんがいなくなったら、僕たちはどうしていいか……」
そうして不安そうにしていたカイルだったが、その不安もすぐに解消されることになった。
「カイル兄ちゃん! お姉ちゃんが目を覚ましたよ!」
子どもたちの一人が呼びに来た。
「本当か! あっ……」
カイルはすぐに駆け出そうとした様子だったが、リーネたちを案内していることに気がついて、立ち止まった。
「あの……えっと……!」
「大丈夫ですよ。むしろ、シスターアリアを紹介してもらいましょうか」
「ああ、やはり大人にも話を聞きたいからな」
リーネとレイヴンの言葉に、カイルは嬉しそうに頷いたのだった。
「こんな格好で失礼いたします。この度は誠にありがとうございました」
布団の中、シスター服姿の女の子が深々と頭を下げてきた。
「いえいえ、子どもたちにも言いましたが、私たちはたまたま通りがかっただけですので」
先程カイルにもした説明を改めて繰り返しながら、リーネはシスターアリアをまじまじと眺めた。
(ふむ、どことなく気品のようなものを感じますね)
身にまとっているシスター服は少し古びているが、それでも清潔に保たれている。
「それでも、私が救われたことには変わりありませんので」
顔を上げてしっかりとリーネを見つめ返すシスターアリア。
(ふむ、美人ですね)
顔立ちも整っていて、どことなく高貴な印象を受ける。
(元は貴族の出だったりするかもしれませんね)
「……あの? 私の顔に何かついてますでしょうか?」
黙ったまま顔を見つめているリーネに、シスターアリアが不思議そうに首をかしげた。
「おっと、いえいえ。ともかく、無事で良かったですね。運が良かったとでも思っておきましょう」
「はい……しかし、何かお返しをしないと……」
その言葉で思い出した。
「おっと、そうでした。子どもたちには協力をお願いしているのですが、あなたにも改めてお願いしましょうか」
「協力ですか? もちろん、私にできることであれば何でもいたしますが」
何でも……今、なんでもって言いましたよね?
「ええ、では、色々と教えていただきましょうか」
言質は取った。せいぜい利用させてもらうとしよう。
「そうですか……スラムの調査を……」
「ええ、ギルドの調査でしてね」
リーネは自分たちがなぜスラムに来たのかを簡単に説明をした。
ちなみに、自分が死神であることは明かしていない。助けたことでバレてそうな感じはしているが、あえて触れないことにした。
「確かに……生まれてからずっとスラムに出ていますが、遺体を見たのは数えるほどしかありませんね……」
王都内で暮らしているとありえないのだが、数えるほどでも見たことがあるのが環境の違いを感じさせる。
「それこそ、王都の方々が回収しているのかと思っていたのですが、そのご様子だと違うのですね」
「はい。こちらのレイヴン様いわく、回収したのはそれこそ数えるほどとのことです」
ちらりと振り返ると、レイヴンも頷いて返した。
「その数えるほどというのは、おそらく同じくらいなのかもしれないね」
「その可能性はあるかもしれませんね」
つまり、表に出た遺体は回収される。
「ちなみに、知らない間にいなくなっていた……みたいなのはよくあるんでしょうか?」
「それは……ええ、あります」
シスターアリアは少し悲しげに頷いた。
「実はこちらの教会の神父様も数ヶ月前から行方不明になっているのです」
どうやら思っていた以上に情報が手に入れられそうだと、リーネは内心でほくそ笑んだのだった。




