第2話 噂と婚約
「しかし、貴族というのは本当に面倒なものですね」
からかいも満足したところで、元の制服姿に戻ったリーネ。
「よくも知らない相手に求婚など、正気とは思えませんよ」
やれやれという様子で首を振った。
「まあね、リーネ嬢もわかっての通り、親から命じられてってのが多いだろうね」
リーネの言葉を聞いてレイヴンは苦笑いを浮かべる。
「所詮は学生だからね。親の言いなりはしょうがないよ」
「親に命じられて二重スパイをしていたレイヴン様が言うと説得力がありますね」
にやりと笑うリーネ。
「今は違うけどね」
「ええ、あなたの本当の主は私だけですからね」
現在はリーネという死神の使徒になっている。果たしてそれがいいことか悪いことかはまだわからないが。
「ちなみにレイヴン様は私について何か言われていたりしないのですか?」
なんとなく気になって尋ねてみた。
「私とよく一緒にいるということは噂になっているみたいじゃないですか?」
学生というのは噂好きなもので、少し一緒にいるだけであっという間に噂は広がっている。
「聞きましたか? どうやら私とレイヴン様が婚約関係にだと学園内では噂ですよ」
にやにやと笑うリーネ。
「……父からは特に何も言われていないね。仲がいいのか? と聞かれたくらいだ」
「ほほう? それでレイヴン様はなんと答えたのですか?」
「普通に友だちだと……それ以外に言えないだろう?」
「ははっ、そうですね。あなたを裏切って別の主についていますなんて言ったらどうなることか、それはそれで面白そうですが」
機嫌良く笑うリーネ。対して、レイヴンはため息をついた。
「冗談じゃないよ。ただでさえ、母からは僕に婚約者がいないからちょうどいいのでは、なんて話も出たんだから」
「あらら、それはそれは、噂が本当になるかもしれませんね」
考えてみれば家格は同じ侯爵同士。元々別系列ではあるが、特に仲が良いも悪いもない。貴族としては間を深めていても不思議ではない。
もちろん、本人同士の想いは別であるが。
「君と結婚したら将来が大変そうだよ」
「ええ、それはきっと今と変わらないのでしょうね」
結局のところ、してもしなくても関係は変わらない。
「まあ、未来のことは未来に任せましょう、ほら、あれですよ。将来お互いに相手がいなかったら……みたいなやつです」
「……是が非でも相手を見つけなくてはならなくなったよ」
こんな軽口を言い合えるほどの相手だ。外から見て婚約していても不思議ではないだろう。
「それはそうと、レイヴン様は今日はオカルト研には来られるのですか?」
話を切り替えて歩き出したリーネ。
「いや、今日は行かないつもりだったけど、何かあるのかい?」
「最近はノエラの方も家の事情とやらで来られず割と暇なのですよ」
「あー、ノエラ嬢は……大変そうだからね」
「ええ、一応電話などはしていますが、直接顔を合わせる機会はかなり減ってしまっています」
おかげで最近はずっとオカルト研に一人だけで本を読む毎日だ。
さすがのリーネとしても少し飽きてきたところだ。
「時間があれば顔を出したいところではあるんだけどね……」
そうして、今日もどうやら一人らしい。
「何か用であるんですか?」
「ああ、ちょっと仕事でね……死神ギルドからの」
「ほう、死神ギルドですか?」
レイヴンが口をすべらせた。
「ああ、ちょっとスラムに行かなくてはいけないんだよ……あっ」
その瞬間、レイヴンがリーネの方を見てきた。その瞳には、やってしまったという思いが浮かんでいた。
そして、その通り、リーネはにやりと笑い言った。
「大変ですね。私もついていきます」
今日の暇つぶしのネタが決まった。




