第1話 自由と告白
その日、リーネ・ミゼリオールはタンブルウッド学園の校舎裏に呼び出されていた。
校舎裏に呼び出されるとなると、以前のリーネにはいじめ以外に理由がなかった。
もっとも、リーネがそんなくだらないことをしてくる輩にやられることはなく、ノエラの協力のもとに徹底的に叩いただけではあった。
しかし、近頃、リーネは違う理由で校舎裏に呼び出されることが増えてきた。
その理由とは……
「僕と付き合ってくれませんか?」
告白だった。
そしてその返事はというと……
「あなたも大変ですね」
呆れたような同情の視線で見られた年頃の男子生徒は、それだけで心が折れるのであった。
そもそもの話、彼らはリーネのことを好いて告白をしてきたわけではない。
もちろん、見た目は悪くないリーネではあるため、その可能性も0ではないが、そんな理由で告白をされるならば以前から告白されていたはずだ。
しかし、最近になって突然告白してくるものが出た。
その理由とは……
「次期侯爵と縁を作っておけと家から言われたのでしょう?」
そう、以前、ミゼリオール家の当主の不正を暴いたことによって、その座がリーネへと回ってきてしまったのだ。
リーネとしてはそんな目的でやったのではないため、大変不本意ではあるが、最近はもらえるものはもらっておこうくらいの気持ちにはなっていた。
「特につながりもない新しい侯爵であれば与し易いという判断なのでしょう。非常に合理的な判断です」
貴族は横や縦のつながりが非常に重要だ。その点で言うと、リーネの立場は浮いていると言って良い。
(その点で言うと、普通であれば優良貴族とのつながりを模索するべきでしょうね)
祖父や両親が高い評価を残したことで、リーネにもそれを期待されているわけだが、特につながりがあるわけではない。
そもそもなぜ家を残したままリーネを次期当主にしているのかわからないレベルである。
ある意味でこういう声掛けはリーネの助けにもなるかもしれない。
「しかし、残念ですね。私はそういうの必要ないんですよ」
そう、リーネは求めていない。
「私は私として自由に生きます」
それがリーネの望みなのだ。
「……」
肩を落として去っていった名もなき男子生徒を見送って、リーネは一人その場に黙って残っていた。
「……趣味が悪いですね」
独り言のように呟き顔を上げると校舎の角から足音とともに一人の男子生徒が現れた。
「……偶然だったんだ」
気まずそうに現れたその男子生徒は、この学校の生徒会長にしてリーネの使徒でもあるレイヴン・ガレンティその人だった。
「たまたま、君を見かけて声をかけようと思ったら、男子生徒と一緒に校舎裏に行くのを見て……」
「それで出歯亀をしていたと?」
「結果的にそうなってしまっただけで、心配していただけだったんだ」
それでも覗き見していたことは変わりないわけで、本人もそれを自覚しているのか小さくなっている。
一応レイヴンとしては、リーネがいじめの対象ではないか? という心配のもとに念の為監視をいれてくれていたようだ。
(随分と親切なものですね)
もちろんそんなのは必要ない。
「心配……心配ですか」
小さくなったレイヴンを見て、リーネは面白そうに笑う。
「それはどちらの話ですかね?」
言いながら笑うリーネの身体から黒い煙が吹き出す。
その煙はリーネの身体を包み込み、実体をなしていく。
すぐにそれは漆黒のローブとなって、リーネを包みこんだ。
「こんなところでその姿にならないでくれ……」
そう、リーネはこの世界にいる唯一の現人神。
「この死神になんの心配があるんでしょうかね?」
死を司る神なのだ。
「心配すべきはリーネ嬢ではなく、男子生徒の方だったか……」
レイヴンは大きなため息をついた。




