第7話 素晴らしき日々
「私が誰かばれると面倒だから普段は隠しているんですけどね」
そう言いながら、リーネは薄く笑いながら背中の大鎌を背中から引き抜いた。
「しかし、それも問題ないですね」
「くっ! ライトニング・ボルト!」
笑いながら近寄ってくるリーネに向かって、執事は雷の呪文を唱える。
「無駄ですよ。神の力を前にしてそんなのが通用するとでも?」
ふらりと眼の前に立ったリーネに執事は膝をつき祈ることしかできない。
しかし、雷の呪文は発動しない。それもそのはず、この場は既にリーネによって支配されているのだから。
「た、助けて……そ、そうだ神よ……」
「おや、神に祈るのですか?」
リーネは薄く笑った。
「でしたら……私が神ですが? ただし……死神ですけどね」
リーネは大鎌を振り下ろした。
鎌が執事の身体をすり抜けると、執事の身体が足元から徐々に光の粒子となって消えていく。
「いやだ! 助けてくれ! 誰か! 誰か助けて——」
必死に助けを求める執事。
しかし、それをリーネはただ見下ろすばかり。
「あら、いい表情ですね」
恐怖のあまり目を見開き、舌が出たままの執事の顔を見て、リーネは満足げに微笑んだ。
そうして、執事は完全に消滅した。
こうして、殺人事件は幕を閉じた——しかし、リーネとレイヴンの物語は、まだ続いていく。
「ええ、今回もいい表情が見れましたね」
「僕としては大変だったけどね……無駄な戦闘もさせられたし」
すべてが終わった後の帰り道、同じ方向に向かうリーネとレイヴン。
「あれは、あなたの自己罰でしょう? 普通に戦えば自分でも簡単に倒せたのにそうしなかったのは、あなたも思うところがあったからですよね?」
「……まぁ、そういうことになるね」
本来、あの程度の魔法使いには、レイヴン1人で十分対処ができる。
しかし、あえてあんな茶番のような苦戦をしたのは、油断によってリーネを傷つけたその反省のつもりだった。
「まぁ、私としては面白い茶番を見せてもらって満足ですけどね」
そのおかげで、リーネが楽しそうなのだから、その価値は十分にあったのだろう。
「はぁ、それにしても、まさか子爵が何も知らないとはね」
「ええ、あの成金の容姿は知らなければ完全に騙されますよね」
記者の見つけた不正の中にも、子爵が関与していると思われるものはなかった。
「もっともこれだけ情報が広まってしまったら、責任は取らざるを得ないでしょうが」
事実として不正は不正。サマンサ子爵家は大きな痛手を負うことになるのは間違いない。
「それも、リーネ嬢が何も言わずにアップロードするからでしょう? 僕は一応止めたからね」
レイヴンはそう言いながら、リーネの方をちらりと見る。
そう記者の家に侵入して書きかけの記事を発見、それをどうしようとレイヴンが困っている間にポチリと投稿ボタンを押したのはリーネだ。
その理由は……
「ええ、その方が面白い表情が見れそうでしたからね」
リーネはカラカラと笑う。そこに反省の色はない。
「まったく、君は本当に……」
あまりにも自由すぎるリーネに、レイヴンは呆れたようにため息をついた。
「そういえば……また証拠が残らなかったね」
犯人であった執事はリーネがその場の勢いで魂滅してしまったため、後には何も残っていない。
「そこを頑張るのがあなたの仕事でしょう? 期待していますよ」
「……リーネ嬢が死神じゃなければ、僕の仕事も随分と楽だったんだけどね」
「そんな死神の使徒になったのがあなたの運の尽きですよ」
リーネはくすくすと笑う。
「ええ、本当に死神になれてよかったです」
リーネが死神になってからというもの、彼女の人生は劇的に変わった。
まだまだこの世界は、面白いことで溢れている。




