第6話 苦戦…?
「いえ、まだわかりませんよ?」
しかし、執事は動じることなく薄っすらと笑みを浮かべたままだ。
「ここからなにかできるとでも?」
「ええ……ライトニング・ボルト!」
執事が呪文を唱えると、彼の手から青白い光が放たれた。
「魔法ですか……しかも雷か、厄介ですね」
レイヴンは飛んできた青白い光を剣にぶつけることで受け止めた。しかし、鉄の剣を伝って手がしびれたのか片手を離して手を振っている。
「ひぇええええ」
ちなみにサマンサ子爵は怯えた様子でソファの後ろに隠れている。なお、大きすぎる体ゆえに隠れきれていない模様。
「まだですよ! ライトニング・ボルト!」
次から次へと、執事は呪文を唱えて、雷をレイヴンに放つ。
「くっ、さすがに魔法相手に剣一本はちょっと厳しいですね」
レイヴンは決して弱くはない。むしろ、騎士としてはかなり強い方だ。
しかし、相手が魔法となると、話は別だ。魔法というのはそれだけの強さがある。それこそがこの世界で貴族が力を持つ理由なのだから。
しかし、それを言うと、レイヴンも一応貴族なのだが……彼はなぜか魔法を使わない。
「はははははっ! 侯爵家といえどこの程度ですか!」
高笑いをしながら、執事は続けざまに呪文を唱える。随分と余裕があるものだ。
「くっ、一人ではなかなか厳しいか……?」
徐々に雷に打たれ傷ついていくなか、ぼそっと呟くレイヴン。
その声に反応したのか、サマンサ子爵がソファから怯えた様子で顔を出し……
「ぐぁっ!」
一瞬にして雷に打たれ、再びソファの後ろに倒れ込んだ。
「ははっ! 私が警戒していないとでも! 本家だからというだけで社長になった馬鹿なやつめ! おかげで不正をするのも随分と楽だったぞ!」
どうやらサマンサ子爵家の会社の不正も執事が裏で糸を引いていたようだ。サマンサ子爵自身は何も知らなかったのだろう。
「くっ、くそっ……」
雷の猛攻にさらされ、頼みの綱のサマンサ子爵も倒れて絶対絶命のレイヴン。
「……はぁ、このくらいでいいですか?」
そんな状況でレイヴンはため息をついた。それは一見すると執事に向けられた命乞いの言葉のように聞こえるが、実際は違う。
「……油断したのは謝りますから、そろそろ許してくれますか?」
声は執事に向けられたものではない。
「何を言い出すのです、狂ったのですか! まぁ良いです! これで終わりですっ!」
執事はそう言いながら、これまでよりも強力な雷をレイヴンに向けて放つ。
見ているだけでも、髪が逆立つような強力な雷だ。きっとレイヴンがこれを受けたら全身感電の上やけどで真っ黒になってしまうだろう。
「……それを見るのも楽しそうですけどね」
しかし、そうもいかない。
リーネは立ち上がり、ゆっくりと祈るように両手を握った。
その瞬間、レイヴンに向かっていた雷が一瞬にして消え去った。
「なん……だと……?」
突然の事態に困惑を隠せない執事。当たり前だ先ほど聞こえた声は、自分が殺したはずの少女のものなのだから。
「いやぁ、いい茶番でしたよ」
握ったその両手を離し、今度は拍手をするリーネ。その表情は凄く満足げだ。
パチパチというこの場にふさわしくない音が響く。
「……はぁ、それじゃあ、あとはよろしく頼むよ」
自分の仕事は終わったというように、レイヴンは戦闘でボロボロになったソファへと座り込んだ。
「ええ、任されましたよ」
そう言いながら、リーネはゆっくりとフードをかぶる。
「そ、その姿は!」
リーネの姿はこれまでのメイド服からは大きく変わっていた。
黒いフード付きのローブを身にまとい、背中には大きな鎌を背負っている。
「し、死神!?」
驚愕と怯えの入り混じった声が執事から漏れた。
それもそのはず、執事のいる前にいるのは死を司る神の如く存在なのだから。




