第4話 金箔豚まん
現れたサマンサ子爵の見た目は、派手な装飾が施された服を身にまとい、金のネックレスをぶら下げている。
(金箔まみれの豚まんにしか見えませんね)
まさに成金の典型的な姿だ。
「本日はどのような、おや……?」
サマンサ子爵の目がリーネに向けられた。
その視線に返すようににこりと微笑むリーネ。
瞬間、沸騰するようにサマンサ子爵の顔が赤く染まった。
(随分と高尚なご趣味をお持ちなようで)
今年で16歳になるリーネだが、見た目はそれよりも数歳は若く見える。中年の男性からしたら子どもも良いところだろう。
「こほん、この子は私付きのメイドだ。基本的にはいないものとして扱って良い」
ましてや今はリーネはレイヴンのメイド役に化けている。おそらくサマンサ子爵は特殊な性癖の持ち主なのだろう。
「とりあえず、腰掛けたらいかがですか? サマンサ子爵」
「あ、はい。失礼します……」
中年の男性はペコペコと頭を下げながらレイヴンの前のソファに腰をおろした。
「さて、サマンサ子爵、本日私たちが訪れたのはとある事件の調査のためです」
「……事件の調査……ですか?」
何もわからないというようにサマンサ子爵は首を傾げた。しかし、リーネは彼の眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。
「ええ、そうです。実は本日、大通りにて殺人事件が起こりましてね」
「殺人事件……ですか?」
「ええ、被害者はアレク・シェルドンというフリーライターで、どうやら王都に関連する様々な噂を調べていたようです」
「ひょっとして、当家にまつわる噂話でもあったとかでしょうか?」
サマンサ子爵の表情が一瞬こわばった後、すぐに呆れたような笑顔になった。
「ま、まあ、当家は急成長した通信事業を生業としておりますからな。何かと噂は立つものですよ」
やれやれという様子でサマンサ子爵は肩をすくめた。
「ええ、まったくですね。どうもそのアレクというフリーライターは熱心な陰謀論者という噂もありまして、何が真実で何が捏造かもわからないのですよ」
レイヴンも同意するように肩をすくめる。
(わざとらしい演技ですね)
こうすることで、サマンサ子爵の反応でも見てるんだろうね。
そしてサマンサ子爵はレイヴンの言葉にほっとしたような表情を浮かべている。きっとレイヴンが自分のことを疑っていないとわかったからだろう。
(もちろん、そんなわけないのですけどね。頭お花畑なんでしょうか?)
「というわけで、彼の家を調査した結果、彼の記事を見つけましてね。それをサマンサ子爵にも確認していただきたいのですよ」
レイヴンはそう言いながら、懐から一枚の紙を取り出して、サマンサ子爵の差し出した。
「ええ、確認いたしま……!?」
受け取ったサマンサ子爵の顔が一瞬にして青ざめた。
(この表情を広めたらバズりそうですね)
脂汗をにじませ、わなわなと震えながらサマンサ子爵はその紙の内容を確かめる。
「な、なんですかこれは!」
握った紙がその汗で湿ってきているのでどれだけ焦っているのかがわかる。
「いかがですか? 内容に心当たりは?」
「あ、あるわけありませんよ! まったくのデタラメです!」
子爵が読んだその紙には、サマンサ子爵家が経営する通信事業会社が行っていた不正の証拠がつらつらと書かれている。
(黒も黒、ブラックホール並の真っ暗さでしたからね)
他社への妨害から、賄賂、そして、顧客の個人情報を売り飛ばしていたことまで、よくここまで調べ上げたものだと関心するほどの内容だった。
これが世に出たら、サマンサ子爵家は一発で破滅する。そんな内容だ。
「そうですか、しかし、困ったものですなぁ。こんな記事を世の中に広めようなんて」
「ま、まったくですな! こんなこう言ってはなんですが、広まる前に死んでくれて助かりましたわ! とこれは失礼」
流石に失言だったと思ったのか、サマンサ子爵は慌てて口を押さえた。しかし、その表情には安心とニヤケ顔が見て取れる。
「ええ、問題ないのならば良かったです。まぁ、私としても子爵家がこんな記事のようなことをしているとは思ってはいませんでしたからね」
「もちろん、当家はなんの不正もしていませんからね。広まったところで真摯に言い返すだけですから」
その言葉を聞いた瞬間、レイヴンの表情が変わった。
「そうですか、そう言ってもらえて助かりましたよ」
レイヴンは微笑みながらそう言ったが、その目は冷たい光を帯びていた。
「なにせ、この記事、もうネットに広まってしまいましたから」
「ははは、そりゃ……はぁ?」
サマンサ子爵の顔が一瞬にして固まった。




