第2話 死神のお仕事
「遅かったですね。私を待たせるとはいい度胸です」
人がいなくなった中、リーネはレイヴンに声をかける。
「これでも早く来たつもりだったんだけどね」
リーネの言葉にレイヴンがため息をついた。
元々学校が終わった際に、たまたま現場に出くわしてなんとなく眺めていただけのリーネだった。
まさかレイヴンがやってくるとは思ってもいなかった。
「……それでリーネ嬢は手伝ってくれるのかい?」
「さあ、どうでしょう? 普通に仕事だけしてもいいですけど」
にやりと笑うリーネ。それはつまり、面白い情報を提供してくれれば手伝ってもいいという意味だ。
「……一応調べてきたよ。どうやら彼の名前はアレク・シェルドン。フリーのライターでネットに記事を上げていたようだね」
レイヴンは振り返ってリーネの質問に答える。
「ああ、なるほど、閲覧数目当てに適当なことを書くお仕事ですか」
「言い方には気をつけてくれよ。ただ、まあ、彼に関しては間違っていないかもしれないね。なにやらすごい陰謀論に傾倒していたみたいだからね」
「陰謀論?」
その言葉にリーネは楽しげに首を傾げる。
「うん、なんでも、魔物から取れるエネルギーでは今の王都を支えるには足りない。そこには王国が隠している秘密があるはずだってね」
「ああ、なるほど、そういう人でしたか。それはそれはどこで恨みを買っていてもおかしくはないですね」
ちなみにリーネとしてはそれほど嫌いではない。あとで記事を読もうかと思えるくらいには興味がある。
そう、興味が出てきた。
「そうだね。犯人候補が多すぎて正直、手詰まりってところだね」
そう言いながら、レイヴンは立ち上がりリーネに視線を向けた。
「というわけで、お願いできるかな?」
レイヴンはリーネを真剣に見つめてきた。
「ええ、不甲斐ない人類に変わって、私が真実を暴いてみせましょう」
「……リーネ嬢も一応人類のはずだけどね」
リーネはそんなレイヴンの言葉を聞き流して、血まみれの男性の死体を見る。
「さて……」
リーネはおもむろに背中に背負っていた大きな鎌を構えた。
その鋭い刃が太陽に抵抗するようにきらりと光る。
振り上げられた鎌は、まるで大きな烏の羽のように空を切り裂く。
そしてリーネは血まみれの男性の胴体に振り下ろし、死体へと突き刺した。
しかし、突き刺さったはずの部分からは血は出てこない。鋭い刃は男性の遺体を、地面を貫通している。
「この者の魂を……」
呟くリーネの言葉に伴って、遺体からは黒い煙が吹き出していく。
遺体から煙が抜けていくにつれて、段々と小さくなっていく。
やがてそこに残ったのは一つの青く輝く石だけだった。
「よし、魂石の完成です」
リーネはその青い石を手に取り緩やかな笑みを浮かべた。
これこそが魂石。人の魂が宿ると言われている石。人の遺体から魂石を作りそれを神へ返すのが死神であるリーネの仕事だ。
本来ならここまでが死神の仕事。
(さて、お楽しみの時間ですね)
ここから先はリーネの趣味の時間だ。
「……ははぁ、なるほど」
深く目をつぶったまま、リーネは微笑みを浮かべた。
(いつ聞いても綺麗ですね)
うっとりするかのようなリーネの表情。
真っ黒なローブを纏ったリーネの姿でそんなことをしていたら、人々はまたしても恐怖の悲鳴をあげるだろう。
もっともその存在自体が畏怖の対象なので、ここには誰も残っていないが。
「……何かわかったかい?」
レイヴンが遠慮がちに声をかけてきた。
「……」
リーネはそれに反応をせずに、じっと目を閉じている。
何かと会話するように、時折リーネの口が動く。
しばらくすると、リーネはゆっくりと目を開けた。
「ええ、聞こえましたよ。彼の声が」
にやりと笑うリーネ。その姿は不気味ながらもどこか楽しそうだった。




