第1話 死神リーネ
こちらはプロローグ部分をきちんと長編化したものになります。
全7話分、お楽しみいただければと思います。
「ああ、随分と面白い感情が渦巻いていますね」
リーネ・ミゼリオールは眼下を見据えながら、平坦に、しかしどこか面白そうに呟いた。
リーネが見下ろす先には、円を描くようにして出来上がった人だかり。
(まるでお祭りみたいですね)
以前見かけたことがある地方のお祭り。高台を中心に輪になって音楽に合わせて踊る様子をリーネは思い出す。
しかし、今彼らの中心にあるのは高台なんかではなく、もっとおぞましいものだ。
その証拠に、人々は円を崩すことなく、一歩を保って中心のそれを興味深げに見つめている。
さらには、
「今、緊急で動画回してるんですけど!」
新型の魔導電話——通称スマホ——を構え生配信でもしているんだろうか?
自身と中心で血まみれの倒れている有名人を入れて必死にバズろうとしている。
(まったく随分楽しい世の中だこと)
そう、円の中心に倒れているのは人だ。それもお高そうなローブをまとった、学者風の男性が血まみれになって倒れている。
その血の根源は、彼の胸に突き刺さった一本のナイフ。
綺麗に心臓に突き刺さった一撃による確殺——一目見て生きてはいないとわかる。
「はてさて、彼は一体どんな恨みでも買ったんでしょうか」
こんな人通りの多い道で殺され、死して尚、動画のネタにされる。彼に一体どんな罪があるのか……
「とても興味深いですね……さて、そろそろ……おやっ?」
リーネが仕事に移ろうとしたその時だった。
「きゃーっ!」
悲鳴が聞こえた。死体に悲鳴。まるでまたしても事件が起こったように聞こえてしまうが、そうではない。
今回のものは悲鳴と言っても、黄色い方の悲鳴だ。
「レイヴン様よ!」
やってきたのは、金属の鎧をつけた精悍な男性。
叫び声につられてやってきた彼に周りの視線が一極集中する。
(まるでアイドルか何かみたいですね)
彼の名はレイヴン・ガレンティ。映えある伯爵家の嫡男であり、とあるギルドの騎士である。
微笑を浮かべながらやってくるレイヴンに、打って変わってカメラを向ける女性陣。
(閲覧料でも貰えれば一生遊んで暮らせるかも知れませんね)
彼女たちの興味はどこの誰かもわからない死体よりもやってきた伯爵嫡男に夢中なようだ。
「すまない、どいてくれないか? 検分をしなくてはいけなくてね」
微笑を浮かべ、声までレイヴンのその言葉に、円を描いていた人々は今度は川のように道を開けた。その様子はまるで軍隊みたい綺麗な動きだった。
「失礼」
川をわたり、血まみれで倒れている男性の側に座り込むレイヴン。それを周りで写真を撮りながら見守る人々。
写真のフラッシュの中で検分するその様子はまるで映画のワンシーンのようにも見える。
「さて、そろそろ私も舞台へ上がるべきでしょうか」
ふらりと立ち上がるリーネ。
漆黒に染まったローブが風に吹かれてなびく。
リーネは両の手でフードを頭に被せ、おもむろに建物の上からするりと飛び降りた。
「こんなところでレイヴン様を見れるなんて!」
音もなく着地したリーネは緩やかに夢中でレイヴンの写真を撮っている少女へと近づき立ち止まった。
「……うん?」
スマホが太陽に遮られたことに気がついた少女は顔を上げ振り向く。
(こんにちはお嬢さん、いい写真は撮れましたか?)
そこにいたリーネは心の中で挨拶をした。もちろん、聞こえてなどいないが。
「あ、あ……」
リーネの姿を目にした少女は、目を大きく見開き、口をパクパクさせている。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
「きゃーっ!」
悲鳴をあげたのは誰だっただろうか。先程の黄色い悲鳴と違い、今度は恐怖の悲鳴だ。
(この落差……)
それもそのはず、リーネは真っ黒なローブを身にまとい、顔はフードで隠れている。
更に、背中には大きな人を真っ二つにできそうなほどの大きな鎌。
(最高ですね)
リーネが薄く笑うと、さらに周りの人々は恐怖におののく。
「し、死神だ!」
周りの人々は恐怖にかられ、後ずさり、まるで何かが弾けたかのように、飛び上がって逃げ去っていく。
やがて残ったのは、リーネとレイヴンの2人だけだった。




