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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第一幕 呪いの旧校舎

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第5話 リーネと死神

(なんですかこれは……)


 ただ顔のような部分があるだけで、目も鼻も口もない、ただの黒い影。

 それなのにリーネはなぜだか、ソレに見つめられているような気がして悪寒がして身震いが止まらない。

 しかし、そんな状態におちいったにも関わらずリーネは冷静だった。


(誰かの魔法でしょうか?)


 見たことのない存在が逆にリーネの興味を煽っていたのだ。


(魔法には興味なかったんですが、これはちょっと気になりますね)


 自分自身が魔法を使えなかったこともあって、魔法に関してはあまり知識がない。


(だけど、こんなの魔法以外では説明できませんよね)


 本来ならばもっとまじまじと観察したいところではあるが、なにせ相手は不気味な黒い影だ。

 それにノエラも倒れたままだ。早くここから出なければ。

 ひとまず立ち上がったリーネは、ゆっくりと後ろに下がり始めた。


(追っては来ないみたいですね)


 相変わらず見られている感じはするけれど、ソレは固まったまま。ただ、ずっとこちらを観察しているようには思える。

 やがて教室のドアまでたどり着いたリーネは後ろ手にドアを開けようとした。その時だった。


(えっ? あれ?)


 力をかけてもドアがびくともしない。もちろん、この部屋には鍵なんかかかっていないし、そもそも閉めた記憶もない。

 混乱している最中、突然背後から嫌な気配を感じて振り返ると、先程の黒いマネキンがブルブルと震え始めていた。


(なに? なにするつもりですか?)


 身構えたリーネ。しかし、その警戒を嘲笑うかのように、黒いマネキンはゆっくりと手を上げ、ゆっくりと振り下ろす。


「なっ!? ぐっ!?」


 振り下ろされた腕が急に伸びて、リーネの喉元を掴んで持ち上げた。


(息が……できない……!)


 さすがのリーネでもこの状況はまずいと感じ、喉元にかかった手を外そうと必死の抵抗をする。

 しかし、その手はなぜかリーネの手をすり抜けてしまう。


(私の喉を掴んでいる実体はあるはずなのに……?)


 まさに理解できない状況に陥ったリーネはだんだんと意識が遠のいていくのを感じた。


(これは駄目そう……ですね……誰かがノエラを助けてくれたら……いい……)



 そうして意識を失ったリーネは、次の瞬間、真っ白な部屋に立っていた。


「ここは?」


 身体が自由に動く、首もなにかに掴まれているわけでもない。


(天国とかでしょうか? 私やっぱり死んじゃったんですかね?)


 最近読んだ"なるう系"小説にもこんな描写があったことを思い出す。


(私だったら何のチートが欲しいですかね)


 あまりにも突然の出来事に混乱したせいか、見当違いのことを考えてしまうリーネ。


『あなたは選ばれました』


 そんな時に、どこからともなく声が聞こえた。女性とも男性ともつかない、ただただ澄んだ声。

 耳から聞こえてくるというよりも、まるで頭の中に直接響いてくるような不思議な感覚だった。


「誰ですか? 選ばれた? 何にでしょう?」


 普通だったらば驚いてしまうようなことだが、今更驚いても仕方がない。


『あなたに神の祝福を』


 その声とともに、リーネの目の前に白い光の球体が現れた。


「これはなんですか? こちらの声は聞こえていますか?」


 リーネの質問に答えは返ってこない。


「とりあえず、触ってみればいいのでしょうか?」


 目の前の白い球体が触れと言わんばかりに点滅している。

 不思議と白い球体から恐ろしさは感じなかった。


「まあ、どのみち他にやれることもなさそうですし」


 言い訳するように誰に言うでもなくそうつぶやくと、リーネはその白い球体に手を伸ばした。


「……!?」


 その瞬間だった。

 一気に全身に電流が走ったかのような衝撃が走り、リーネの身体になにかがものすごい勢いで流れ込んできた。


(なに……これ……)


 まるで全身が壊され、再構築されていくような不思議な感覚。


(でも……怖くない……)


 普通だったら発狂するようなものだが、不思議と怖くはない。悪いものとは思えなかった。

 どこか心地よい感覚に目をつぶって身を任せるリーネ。


 それからどのくらい経っただろうか、やがて感覚が収まりリーネは目を開いた。


「……なるほど」


 そしてリーネは静かに呟いた。自分に何が起こったのか、それを理解したからだ。


「神様も粋なことしてくれますね」


 そう言ってリーネは笑った。面白くて面白くて仕方がなかった。


「さて、そうなればこの状況もさっさと片付けてしまいましょうか」


 リーネはそう呟くと、下を見下ろした。

 そこには自身の首を絞めているあの黒い手がある。


 そう、リーネはいつの間にか元の教室へと戻ってきていたのだ。


(さっきまでは苦しかったはずなのに、今は全然平気ですね)


 同じように持ち上げられているはずなのに、状況はまったく違う。


「よいしょっと」


 リーネはさっき掴めなかったその黒い手に再び掴みにかかった。

 今度も手はすり抜けた。しかし、先程のようにただすり抜けたのとは違った。


 リーネの手に触れた瞬間、黒い手が霧のように霧散していった。

 それに驚いたのか、黒いマネキンの震えが今までよりも大きくなったようだ。


「さて、救済の時間です」


 地上に降り立ったリーネはファサッという音を聞いて自分の姿を確認した。


(なるほど……こういうことですか)


 リーネの姿は先程の制服姿から一変していた。

 全身は黒いローブに覆われ、頭にはフードがかぶさっている。そのおかげか視界が少しだけ狭くなっている。


(知識によると隠蔽効果もあるらしいですね。そういう魔道具みたいなものと思っておきましょう)


 こういう格好を嫌いではないリーネは、なんとなく笑みを浮かべながら少し周りを見回した。


(おや?)


 黒いマネキンは警戒するようにリーネのことを見ている。しかし、リーネが気になったのはそれではない。


(ノエラのあの状況は……)


 リーネの目に止まったのは、倒れたままのノエラだった。その様子はまるで普通に眠っているかのようにも見える。

 しかし、今、この姿になって改めて見ると、それがまずい状況だということが理解できた。


(本来ならもう少し楽しみたかったところですが、ゆっくりはできませんね)


 そう心に決めたリーネは未だにその場で震えている黒いマネキンを見つめなおした。


「あなたがどこの誰かは知りませんが……あなたを救ってさしあげましょう」


 言いながらリーネは黒いマネキンへ近づいていく。その途中、背中に背負っていた身長ほどもありそうなほど大きな鎌を取り出した。

 恐怖か寒気でも感じたのか、黒いマネキンの震えがさらに大きくなった。


「さあ、あなたに……《《死神》》の祝福を……」


 大きく振りかぶった鎌を無抵抗のままの黒いマネキンに振り下ろした。

 袈裟斬りにされた黒いマネキンは動きを止め、先程の手と同じように黒い霧になって霧散していった。


「……ふぅ」


 それを見届けたリーネは、深く息を吐いた。


(なんだか、大変なことになりましたね)


 自分自身に訪れた変化、今自分が流れるようにやったこと。

 まるで夢を見ているような感覚だった。


(……疲れました)


 その夢が覚めていくように、リーネはだんだんと意識が遠のいていくのを感じた。


(そうか……私……)


 完全に意識が遠のく直前、リーネは自分を見下ろすように現れた人影を見たような気がした。



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