第32話 生徒会長と風紀委員長
「やってやる! うぉおおおおお!」
エガードは先程の迷いを打ち消したような勢いを見せて、レイヴンに斬りかかった。
エガードの剣にはなにやら炎がまとわりついている。
「魔法剣か、随分と器用だね」
さすがに貴族ともなれば、そんじょそこらの衛兵とは違って厄介なようだ。
だが、それはレイヴンも同じ。
「それじゃあ、僕の方もやろうかな」
そう言って、レイヴンは自分の剣をなぞっていく。しかし、エガードの剣と違って何かを纏っているようには見えない。
「失敗か?」
「そう見えるかい? でも残念ながらそんなことはなくってね……っと!」
警戒するように距離を取っていたエガードに向かって、レイヴンが剣を振った。
距離的には全く届かない。しかし、エガードが咄嗟に構えた剣が弾かれて後方に飛んでいった。
「な、なんだ!?」
剣を落としたエガードは混乱を隠せない。
「飛ぶ斬撃とでも言うのかな? すごい便利だよ」
レイヴンはにっこりと笑って言った。
どうやら魔法に失敗したのではなく、剣に風をまとわせてそれを飛ばしているようだ。
炎の魔法剣ほどの一撃の威力はないが、厄介度合いでいうとこっちのほうが上だろう。
「さて、それじゃあ、君は少し眠っておいてもらおうか」
レイヴンはそう言うと、空手になったエガードに向かって再び剣を振った。
「ぐっ!」
エガードに防ぐものはない。エガードは斬撃によって後方へと吹き飛ばされていった。
「あら? 殺さないんですね」
「ああ、彼自身の罪はそこまでではないと思うからね」
「そうですか? まあ、確かにこの人ほどではないですね」
リーネはそう言うと、ゆっくりと残っていた一人に振り返った。
「ひっ!」
視線を向けられたのはヴェルディオ。彼は今までの戦闘には参加していなかった。
「く、くるな! くそっ! 身体が動かん!」
それも当然。リーネによって拘束されていたのだから。
「いやぁ、私としてはあなたにそこまで興味はなかったんですよ? 単に理由さえ話してくれればそれでよかったんですが……」
「ま、待て! 話せばわかる! 金か? 地位か? 何でも用意する!」
「そうですね。私が欲しいのは、あなたのいない世界でしょうか……と、一つ確認を忘れていました」
「な、なんだ! 何をすればいい!」
希望を見つけたのか、ヴェルディオは必死だ。
「あなた、これを知っていますか?」
リーネが取り出したのは、とある人工魔石だった。
もちろん、人工魔石会社をやっている人間だ。人工魔石など見飽きるくらい知っているはずだ。
「う、うちの人工魔石だ! 欲しければいくらでもやる!」
「いえ、違いますよ? これはこうして……こう使うものです」
リーネはもう一つ取り出した白い本にその人口魔石を組み合わせた。
「……そ、それは……な、なぜ……!?」
ヴェルディオがそれを見た瞬間、顔色を変えた。
「あ、その反応で結構です。よくわかりましたから」
(これで答えがわかりました)
満足したリーネは姿を変えた。いつもの黒いローブに大きな鎌を背負った死神の姿だ。
「ひっ、ひぃいいいい!」
目の前に急に現れた死神に恐怖に震え上がり、小水を漏らすヴェルディオ。
「実はですね。私今、非常に気分が良くてですね。なぜだかわかりますか? ええ、目の前に何をしてもいい人がいるんですよ」
にっこりと笑うリーネ。
これまでも散々色々とやってきたが、それでもさすがにこれはと抑えていたことがある。
「これからあなたの魂を消滅させます。魂滅ってやつですね」
それは、輪廻転生からも外れる完全な消滅。
「やめろ! やめてくれ!」
叫ぶヴェルディオに対して、リーネは背中から大きな鎌を抜き去り、構えた。
「さあ、祈りなさい。もっともその祈りは誰にも届きませんけれどね」
そう言って、リーネは鎌を振り下ろした。
ヴェルディオの身体をすり抜けるようにして地面にささった鎌。
「……?」
予想していたことはずれたのか、恐怖に目をつぶっていたヴェルディオが不思議そうに首をかしげながら目を開いた。
「……あ、あれ?」
それでも彼は気がついたようだ。自分の身体が徐々に消えていくことに。
ヴェルディオの身体が、足元から徐々に光の粒子となって消えていく
「いやだ! 助けてくれ! 誰か! 誰か助けて——」
必死に助けを求めるヴェルディオ。
しかし、それをリーネはただ見下ろすばかり。
それは当然。これは断罪なのだから。
「あなたは神に見放されました……さようなら。父に謝って……いや、それすらも無理なんでしたね。失礼失礼」
あはは、と笑うリーネ。
そうして、ヴェルディオは完全に消滅した。




