第31話 魔法と衛兵
「あなたはなぜ私の両親を殺したのですか?」
そう言って迫るリーネに対して、
「う、うるさい黙れ!」
ヴェルディオは顔を真赤にして激昂した。
「お前も殺してやる!」
そう言って、ヴェルディオは手を振りかぶり、
「危ない!」
巨大な爆発が部屋の中に響き渡った。
ヴェルディオはあんな人間でも、貴族の一員、それも侯爵家の人間だ。
強力な魔法を使いこなすことができる。
今放った魔法も、本来であればこの部屋ごと吹き飛ばすほどの威力があるはずだった。
「ふぅ、交渉は決裂ということですね」
しかし、当然リーネにはそんな魔法は効かない。
それどころか、この部屋にはいっさいの影響すらなかった。単に大きな音が響いただけだ。
「なんだと!?」
まるで無傷でいるリーネやレイヴンを見て、ヴェルディオは混乱しているようだ。
「まったく部屋が壊れたらどうするんですか」
呆れたような表情でリーネは言った。
「うるさい黙れ!」
侮蔑の表情で見られたことに、ヴェルディオはさらに怒りを募らせた。
「侯爵様、ご無事ですか!?」
ちょうどその時、扉が開き、数名の鎧をまとった衛兵が駆け込んできた。
「お前達! この侵入者を始末しろ!」
これ幸いにとばかりに、ヴェルディオが衛兵に命じた。
「は!? しかし……」
衛兵たちは互いに顔を見合わせた。
なにせそこにいるのは、リーネとレイヴンだ。リーネはともかくレイヴンはミゼリオール家と同じ侯爵家の人間。
二人を迎えた衛兵たちが知らないはずがない。
「いいからさっさとしろ! 所詮子どもだ!」
それでもヴェルディオの命令に逆らうことはできないのだろう。衛兵たちは剣を抜き、リーネとレイヴンに襲いかかってきた。
(職業人は世知辛いですね)
「おっと、レイヴン様の出番ですよ」
か弱い女の子であるところのリーネは後ろに下がり、レイヴンに任せることにした。
「任せて」
襲いかかってくる衛兵たちに対して、レイヴンは腰にかけていた剣を抜き放った。
その動きは素早く、リーネには全く追うことができなかった。
「ぐへっ!」
しかし、攻撃を受けたのか、衛兵の一人が吹き飛ばされて扉の外に追い出された。
「なんだと!?」
「やりすぎたか。相変わらず、すごい威力だなぁ」
なぜか吹き飛ばしたレイヴン自身も驚いているようだ。
レイヴンは元々剣術はそれなり程度の腕前だったが、以前にリーネの信徒になったことによって、大幅に能力が向上している。
それにまだ慣れていないためか、手加減を間違えてしまったようだ。
「このくらいかな?」
レイヴンはそう言いながら、次々と襲いかかってくる衛兵を扉の外へと吹き飛ばしていく。どう見ても手加減しているようには見えない。
(いったい誰のせいでしょうね?)
きっと彼もストレスが溜まっていたに違いない。
そうして、すべての衛兵が部屋から追い出された。
「父上! 何事ですか!?」
もう一人部屋へ駆け込んできた。
今度駆け込んできたのは、鎧を着た衛兵ではない、貴族の服装をした青年だった。
「やあ、エガード。久しぶり」
「レイヴン様!? それに……お前は!」
入ってきた青年にレイヴンが声をかけると、青年はレイヴンを見てリーネを見て、驚いた表情を浮かべた。
(誰だっけ……いや、確かこの人の子どもだよね? 名前……)
顔はなんとなくおぼえているけれど、名前が思い出せないリーネ。
「エガード! お前も手伝え! この二人を始末するんだ!」
(ああ、そうそう。そんな名前だった)
「い、一体なにが!?」
エガードはどうやら混乱しているようだ。
「どうする、エガード? やるかい?」
レイヴンが笑顔でエガードに尋ねた。
「それは……」
「我家の危機だ! さっさとやれ!」
エガードは逡巡していた様子だったが、ヴェルディオの命令には逆らえないのか、剣を抜き放った。
その瞳には一瞬だけ悲壮感のようなものが見えたのをリーネは見逃さなかった。




