第4話 潜入と本
レイヴンと別れた後、リーネとノエラはどちらともなく歩き出した。
「さて、忠告が入ったわけですけど……当然?」
「もちろん、続行ですわ」
「ですよね」
早く切り上げるつもりなんて毛頭ない。
むしろ生徒会長のレイヴンがここに来たということは、何かがある可能性が高い。
「さあ行きますわよ! オカルトが私たちを待っていますわ!」
そうしてテンションの上がったノエラに引きずられるようにして、そのまま旧校舎へと向かうことになった。
鬱蒼と茂った森の中を抜けていく。
(近くに動物でもいるんでしょうか?)
時折、森の中の草が倒れているのを見かける。ひょっとすると小動物がいるのかもしれない。
学園が近くにあることで、きっと魔物が発生することはないだろうが、動物くらいはいてもおかしくない。
(いい雰囲気ですね)
放課後も時間が経ち、夕方にさしかかっている中、夕日を背負った古びた校舎はどこか不気味な雰囲気をかもし出している。
旧校舎は当然立ち入り禁止だ。
「どうするんですか?」
「当然! 忍び込みますわよ!」
しかし、今更そんなことは関係ない。
「ここの窓はいつも開いているのですわ!」
無断立ち入り常習犯のノエラがさも当然のように窓を乗り越えて入っていく。
(窓枠壊れたりしないでしょうか?)
スムーズに入ったノエラに対して、リーネは少しおっかなびっくりとその窓をなんとか通り抜けた。
中は当然電気などついていない。外から入ってくる夕日の反射だけが、かろうじて薄暗い中を照らしている。
とてもではないがまともな人間が来る場所には思えない。
(まさに我々のことですけどね)
今の自分たちの状況を考えて思わずリーネは苦笑してしまったが、すぐにノエラに顔を向けた。
「それで、どうするんですか? なにか宛などはあるんですか?」
リーネが尋ねると、ノエラは得意げに懐に手を伸ばした。
「こんなこともあろうかと今日は特別な道具を持ってきているのですわ!」
自信満々にノエラが取り出したのは、棒状の先に球体がついているような見たことのない道具だった。
「魔道具ですか?」
「そうですわ! これはユラシエル家の総力を上げて作成した魔力の痕跡をたどることができる魔道具ですわ!」
「またノエラは実家の力を堂々と使いますね」
ノエラがこうして家の力を使った魔道具を持ってくるのは初めてのことではない。
「いつも通りアイデアと仕組みは私が考えているだけですから問題はありませんわ!」
才女であるノエラは、魔道具の仕組みを考えるのも得意だ。結果的に作り上げた道具は後に販売を開始することもあるので、WIN-WINの関係にはなっている。
もっとも、ノエラが自分の興味を優先しているらしく、時折突拍子もない提案をしていることをリーネは知っている。
「さっそく使っていきますわ!」
ノエラは魔道具を構えてスイッチを押す。すると、魔道具の先端の球体が青白く光り始めた。
そのままノエラは魔道具を色々な方向へ向けさせている。方向を変えるたびに、球体の光が強くなったり弱くなったりしていた。
(何も知らずに見ていたら本当に怪しいだけの人ですね)
何しろノエラの見た目はとても良い。つまり怪しい美少女が薄暗い廃墟の中で光る棒を振り回している。
今外から覗かれでもしたら、魔法少女にでも勘違いされるかもしれない。
「ふむ、どうやらこちらの方が反応が強いみたいですわね!」
やがて特定ができたのか、ノエラが魔道具をかざしたまま導かれるような様子で歩き始めた。
リーネもそれに続いて、老朽化でボロボロになったり腐って床が抜けそうで危ない道をなんとか乗り越えていく。
やがて校舎の端の方にある、ひとつの教室へとたどり着いた。
「この部屋がひときわ強い反応があるみたいですわ!」
ガタガタと古びたドアを開けて中へと入ってみる。
(まるでタイムスリップしてきたみたいですね)
教室の中はこの旧校舎が使われていた当時のまま、机や椅子が並んでいる。後ろには木で作られたロッカーもあり、そこには古びた教科書などがそのままに残されている。
「ここに呪いの元凶があるんですか?」
「ええ、これだけ強い反応をしているのです! 最近使われたことは間違いありませんわ!」
(そっか痕跡が残っているってことはそういうことですか)
古くに使われた魔法だったら、痕跡は薄れて消えてしまっているはずだ。
(でも、それにしては埃まみれですね)
教室の中はまるで誰も手を付けていないかのように埃が積もっている。とても最近使われたようには思えない。
「早速調べてみましょう!」
ノエラは意気揚々と後ろのロッカーを調べ始めた。
(まあ、なにかしらがあることは間違いないでしょう)
ノエラの魔道具が壊れているのでなければ、何かしらの魔法が過去に使われたことは間違いない。
それがどのようなもので、どのような影響を及ぼしたのかはまだわからないが、調査を進める必要がある。
そう結論付けて、リーネも教室の中を調べ始めた。
(何もないですね)
軽く探しただけではあるが、すぐに飽きてしまった。
というのも、教室の前あたりを調べたけれど、そこにあったのは古い書籍や壊れた文房具などの残りだけ。
とてもではないが、呪いや魔法に繋がるような何かがあるようには思えなかった。
(ノエラの方はどうでしょう)
ちらっとノエラの方を覗いてみると、ノエラは教室の隅でなにかの本を読んでいるみたいだった。
(なんか熱心に読んでいますね。ひょっとして何か見つけたんでしょうか)
気になったリーネはノエラに声をかけてみた。
近づいてみると、ノエラが手にしていたのはボロボロの古びた本だった。表紙には楕円形の汚れがついている。何か装飾品のようなものが付いていたのかもしれない。
「ノエラ、その本はどうしたんですか? あれ?」
ノエラが開いている本を後ろから覗き込んでみて驚いた。
「……」
ノエラは白紙のページをじっと見つめて固まっているのだ。
「ノエラ?」
まるでそこに書かれているなにかに熱中するかのように微動だにしていない。
いや、よく見れば、目は虚ろのままで少し身体が震えている。どう見てもただ事ではない。
「大丈夫ですか?」
肩を叩いてみると、ふっとノエラが急に力が抜けたようにそのまま倒れてしまった。
倒れてしまったノエラはまるで壊れた人形のように瞳孔の大きくなった目を見開いたままだ。
「ノエラ!?」
リーネは慌ててノエラを揺さぶるが、反応はない。
呼吸はあるみたいだったが、不規則に荒れた呼吸だった。
「しっかりしてください!」
頬を叩いてみるが、反応はない。
(意識不明……これが噂の呪いですか?)
噂ではみんな意識不明の状態で発見されているらしい。ノエラもまさにその状態に見える。
(ここから離れた方がいいでしょうか? しかし私だけだとノエラを運び出すことはできませんね)
この時ばかりは非力な自分が恨めしい。
(とりあえず、助けを呼ぶしかないですね)
そう思って立ち上がったその時だった。
(なにか……寒い?)
背筋に冷たいものが走った。まるで後ろから直接冷気を当てられているかのような感覚。
(影? いえ……)
冷や汗をかきながら振り返ってみると、そこには黒い影が立っていた。
ただの影には見えない。人の形をした黒い煙と言った方が正しいかもしれない。
顔を伏せたままのそれが、リーネの視線に気がついたのかゆっくりと顔を上げ。
リーネを見た。




