第20話 遺体と平民
「では、まず、あの遺体の人物だが。名前はライナーという平民の男性だった」
「あら? そちらの方も平民の方ですの? 貴族学校ですのに、優秀な方だったんですのね」
「ああ、どうやら優秀な人物だったらしく、試験に合格して入学してきたらしい。今から二十年ほど前の学生だな」
平民でも優秀なら入れる。ただし、それが許されるのは年に数人程度しかいない。
そこに入れたということはかなり優秀な人物だったのだろう。
「しかし、周りは貴族ばかり。当然馴染めるはずもなく、彼はほとんど一人でいることが多かったらしい」
「ふむ、一人で……研究とかでもしていたんでしょうかね?」
「ああ、どうやらそうらしいぞ。なにやらもう一人仲間がいて、その人物とともによく実験のようなことをしていたと、当時の教員が話してくれた」
「さすが生徒会長ですね。教師にまでコネがあるとは」
よく、その教員にたどり着けたものだと、少し感心するリーネ。
「しかし、ある時から突如行方不明になってしまったとのことでな。ライナーには身よりもなく、当時は平民の扱いが今ほどよくなかったため、さほど調査もされなかったようだ」
「そういう時代ですのね……」
ノエラが少し悲しそうな顔をする。
教師が言うには良くも悪くも、ここ二十年ほどで世界は色々と変わったらしい。
(いつの時代も世知辛いものですね)
もっとも、その頃には生まれていないリーネにはわからないことだが。
「見つかったライナーの死因だが、調べたところ予想通り窒息死だったよ。おそらくあの空間に閉じ込められてしまったせいで、空気がなくなったのだろう」
あの広さの空間だ。きっと一日はもたなかっただろう。
「そして、リーネ嬢が言っていた通り、あの魔道具は外から魔力を注がないと起動しない仕組みになっているらしかった。そして、その人物は誰かというのを調べたんだ」
「なるほど、その人物がクレインという名前だったと」
「その通りだ。その人物はクレインというライナーと同じく平民出身の学生だった」
「ええ、間違いありませんね。それが叔父の話していた人物でしょう」
「同じ名前の方という可能性はありませんの? クレインというのはさほど珍しくない名前でしてよ?」
ノエラがそう言ってきたが、リーネは首を振った。
「いえ、ないと思いますよ。叔父は学生時代にクレインを拾ったと言っていました。そして、先程のレイヴン様は二十年前とおっしゃっていましたよね?」
「うん? ライナーが行方不明になったのかい? ああ、そうだよ。ちょうど二十年前らしい」
「そうなると、当時のライナーは十六歳程度……現在生きていれば三十六歳……クレインも同じだと考えたら……」
念の為少し頭の中で計算をしてみるが間違いなかった。
「叔父は二人とは同級生だったのではないでしょうか?」
「同級生?」
「ええ、私は父が二十一歳のときに生まれました。つまり、生きていれば現在は三十七歳です。そして、叔父は父の一つ下の歳ですから、三十六歳です」
(母に馴れ初めを嫌と言うほど聞かされたのが役に立ちましたね)
そうでなければ両親の年齢すらわからなかっただろう。
「なるほど、学生時代からの付き合い、同じ学校の生徒……確かに間違いなさそうですわね」
「ああ、そうだな」
ここで同じ名前の人がいたら偶然がすぎる。
「しかし、ちょうど良かったよ。実は、そっちの事件の調査で明日、そのクレイン氏に会いに行く予定だったんだ」
「おっと、それは神がかったタイミングですね。私の日頃の行いがいいからでしょうか」
「日頃の行い……?」
「……まあ、ともかく、遠回しにでも何かわからないか探ってみるよ」
「ええ、お願いします」
神がかったタイミングだ。ここから何かわかるかもしれないという期待がリーネの中に芽生えた。
しかし、
「駄目だ、クレイン氏は何も話してくれなかったよ」
次の日、やってきたレイヴンが肩を落として言った。




