第17話 報告と資料
「まさか本当にそんなことをするなんて……」
次の日、レイヴンにノエラと一緒にミゼリオール邸に潜入したことを話したところ、彼は驚き頭を抱えてしまった。
「幽霊になって貴族の屋敷に潜入? 死神はそんなことまでできるのか?」
「ええ、楽しかったですわよ!」
ノエラは非常に楽しそうにしている。ちなみに身体は取られることはなく、無事に戻ることができた。
(まあ、取られたとしても取り返すのは簡単なんですけどね)
そんなことはもちろん言わない。つまらないから。
「潜入など……他の貴族にバレでもしたら……それにそんな簡単に潜入できたら色々と……」
レイヴンが小声でぶつぶつと呟いているが、そんなことはどうでもいい。
(スパイだから思うところがあるのでしょうね。今度レイヴン様にもやらせてあげましょう)
それは今後の楽しみにしておくとして、
「ひとまず、そこで見つけた情報もありますので、お互いの情報を共有しましょう」
今日の集まりも、レイヴンがマナ中毒に関する調査結果を報告するからと集まった。
どうせだからとリーネ側が何をしていたかを教えたら、レイヴンが頭を抱えてしまったというわけだ。
「あ、ああ。そうだね。それじゃあ、リーネ嬢の方から聞かせてもらえるかい? できるだけ細かく頼むよ」
「ええ、では、とりあえず、ノエラの家に集合したところから……」
リーネはノエラと一緒にミゼリオール邸に潜入した時のことを詳細に話し始めた。
「なるほど……結果的にリーネ嬢の予想は当たっている可能性が高いということか……」
すべての話を聞き終えた、レイヴンは腕を組んで神妙な顔をしている。
「ええ、空調設備に細工がされていて、マナが家中に充満した可能性が高いです」
「細工の跡は明確でしたわ。偶然なんてことはありえませんわ。あれは間違いなく意図的なものでしたわね」
ノエラが技術者らしく断言する。
「なるほどね……あとはどこの誰が細工を施したかというところだけわかればいいというわけか」
「そうですね。状況証拠からしたら叔父関係以外はありえないと思いますが。あくまでもその可能性が高いというところで確定にはできていない状況ですね」
これが侯爵家の家でなければこの時点で追求することができるだろう。しかし、相手は高位貴族。責任を追わせるためにはきっちりと準備をする必要がある。
「やれやれ、これならば僕の方で見つけた情報なんていらなかったんじゃないか?」
「いえ、まだ家中にマナが充満した可能性が高いというだけで、それが死因と確定できているわけではありませんからね」
「そうですわ。マナが充満したことと、実際に死亡したことの因果関係を証明する必要がありますわね」
ノエラの言葉にリーネは頷く。そこでレイヴンの調査が重要になるのだ。
「そうだね。それじゃあ、僕の方の調査報告なんだけど……」
レイヴンは自分の鞄から数枚の資料を取り出してテーブルの上に広げた。
「まずタンブルウッド王国における冒険者の死者数を調べてみた。それが、この数だ」
(想像以上にきちんとしてますね)
レイヴンが用意してきた資料はリーネが思っていた以上の量だった。こんなものどこから集めてきたのかと驚くほどだ。
「結構な量ですね。冒険者というのは今の時代も過酷な仕事なんですね」
「ああ、魔物と戦うことを主な仕事にしているからな。しかし、注目してほしいのはこちらだ」
レイヴンが示した先には、死因不明で亡くなった冒険者のデータがある。
「死因が不明というのは、遺体が見つかっているけれど、その明確な死因がわからない場合を指す。で、その数が一般人の5倍以上もいるんだ」
「外傷もなく、病気でもなく亡くなっていると?」
「ええ、それこそリーネ様のご両親のようにですわね」
ノエラが資料を覗き込みながら呟く。
「ああ、それで、さらに詳しく調べてみたんだが、その中のいくつかにはとある共通点があった」
「共通点ですか?」
「ああ、彼らが亡くなった場所だ。洞窟内や地下などのあまり空気が循環しない空間で亡くなっているケースが多かった」
「あまりということは、完全な密閉空間ということではなくですか?」
「うん、そうだね。どうやら彼らは呼吸困難で死亡したわけではないらしい。それでも、眠るようになくなっていたらしい」
「本当に私の両親の時のようですね」
ひょっとしたら私の両親の時も同じような形で原因不明とされたのかもしれない。
つまり前例があったということだ。
「密閉空間ではない……ということは、マナが充満する環境だったということですわね」
ノエラが技術的な観点から補足する。
「ここまでの情報から、冒険者が多く行く場所、空気が淀みやすい場所に長時間いることで亡くなるケースが多いことがわかった」
それは重大な発見だった。




