第3話 調査と生徒会長
レイヴン・ガレンティはタンブルウッド王国の大貴族ガレンティ侯爵家の長男だ。リーネたちが通うタンブルウッド学園の生徒会長も務めている。
その人物像としては、容姿端麗、成績優秀、性格も穏やかで、誰からも好かれる完璧超人という漫画から出てきたような存在だ。
リーネは存在を知ってはいたものの、実際に間近で見るのは初めてだった。
(まるでゴーレムみたいですね)
レイヴンの姿を目にして、リーネは思わず首をかしげた。どうにも、彼の笑顔が綺麗すぎて違和感があった。
「ほら、手を出して」
「はい……ありがとうございます」
レイヴンの差し出した手に、ノエラが顔を赤くしながら手を重ねる。
ノエラがこんな状態になるのは非常に珍しい。ノエラも見た目はいいので、まるで絵画のようにも見える。
(私はいわばモブキャラですね)
もちろんリーネにはヒロインになりたいなんて気持ちはないが。
「それで、君たちはこんなところで何をしているんだい?」
立ち上がったノエラに首をかしげ尋ねるレイヴン。
「あ、えっと私たちは……」
「おやおや、生徒会長様は女の子の事情が気になるのですか?」
顔を赤くしたままのノエラが余計なことを言いそうな気配を感じたので、リーネは遮るように先に口を出す。
これまで黙っていたリーネが突然口を出したことに驚いたのか、レイヴンがリーネの方を見てきた。
「あれ……君……」
リーネを見て、レイヴンは怪訝そうに目を細めた。
(なるほど、これは随分とおモテになるでしょう)
目を合わせてみるとよくわかる。とんでもなく整った顔立ち、薄っすらと浮かべる笑みは見るものを魅了する。
「なんですか? そう見つめられると……通報したくなりますよ」
「随分と意地悪だね。僕はそんなに怪しいかい?」
そんなことないだろう、とでも言いたげに自信満々な様子でリーネに尋ねてきたレイヴン。
普通の女子だったら問答無用で首肯するところだろうが、リーネは違う。
「ええ、こんなところでうろついている男性は怪しいと思いますが? ノエラもそう思いませんか?」
「えっ!? あ、そう……言われてみれば?」
リーネの言葉にノエラも我に返ったのか、赤くしていた表情も落ち着きを取り戻したようで、いつものノエラに戻りレイヴンに警戒の目を向けた。
「いやいや、僕は単純に調査をしていただけだよ。ほら知らないかい? 最近このあたりが治安が悪いって噂になっていてね」
「噂……なるほど? 一人でうろつく男性に襲われたとかいう噂ですかね?」
「君はどうしても僕を怪しい男に仕立て上げたいみたいだね」
疑われているのにもかかわらず、レイヴンは笑顔を絶やさない。
(ふむ、なかなか揺れませんね)
もちろん、リーネも警戒はあくまでもブラフで、本気で疑っているわけではない。
ただ、レイヴンの反応を少し観察していただけだ。
あわよくば弱みなど握ればなんて邪なことは思っているが。
(これはそう簡単に崩れないですね。まだ情報不足でしょう)
少しカマをかけてみたが、揺らぐ気配がない。この場は無理だと諦めた。
「まあ、冗談はさておき、私たちはちょっと散歩をしていただけです。ですよね?」
「ええ、そうですわね。治安が悪いというのも初めて聞きましたので早めに切り上げますわ」
ノエラもリーネの言葉に同意し、レイヴンに向かって微笑む。しかし、その笑顔には貴族独特の有無を言わさないという圧も含まれている。
「そうかい。じゃあ、気をつけてね」
レイヴンもその圧に気がついたのか、貴族らしい笑顔を浮かべてリーネたちに背を向けようとして、
「あ、そうだ。もしも、なにかわかったら生徒会まで知らせてね」
笑顔でそう言い残して、今度こそ去っていった。
(あー、これは何をしようとしていたかバレてましたね)
なにかあったら、ではなく、なにかわかったら、と言い残した。つまりリーネたちが調査のために来ていたということはお見通しだったのだろう。
「はぁ……」
「……行きましたわね」
曲がり角でレイヴンの姿が見えなくなるまで見送って二人は口を開いた。
「さすがにびっくりしましたわ。レイヴン様がこんなところにいるなんて思ってもみませんでしたわ」
「ええ、調査って言ってましたっけ? 生徒会の仕事とかでしょうか」
リーネとしては生徒会長は大変なのだな、くらいにしか思っていなかったのだが、ノエラがそれに対して首を振った。
「いえ、生徒会の仕事ではありませんわね。私が先程調べた時、生徒会の内部情報にもアクセスしましたが、そんな情報は一切有りませんでしたから」
(内部情報にアクセス……いつものことながら凄いことをしてますね)
ノエラの調査技術は群を抜いている。そんなノエラにかかれば、学内の情報は筒抜け状態なのだ。
「その私であっても、今回の件を旧校舎に結びつけるのには多少苦労しましたので」
「そういえば、結構時間かかっていましたよね」
と、そこでリーネは気がついた。
「え? あれ? レイヴン様はどこからその情報を入手したのでしょうか」
リーネは思わずつぶやいた。
「……わかりませんわ」
どうやら、ノエラもその答えは持っていないようだった。
(レイヴン・ガレンティ……面白そうな人ですね)
沈黙の中、リーネは笑みを浮かべていた。
それは、まるで子どもが新しいおもちゃを見つけたかのような楽しげな笑みだった。




