第15話 証拠と叔父
「これは何かしらの証拠になりそうですわね」
「さすがにこれごと持ち帰りは無理ですよね」
(いえ、できるはできるでしょうけど)
死神であるリーネ。やってやれないことはない。
しかし、今は隠密を楽しんでいるところだ。潜入が目的であって泥棒ではない。
「まあ、写真にでも撮っておけばいいでしょう」
「そうですわね。ここを撮ってくださる?」
リーネは自分のスマートフォンを取り出して、ノエラが指差す細工されたらしい部分を撮影していく。
「しかし、私が見てもさっぱりわかりませんね」
「確かに一般の方が見てもわからないでしょうね。けれど、私のような魔道具の専門家が見れば一目瞭然ですわ」
やはりノエラを連れてきたのは正解だったようだ。リーネ一人だったらきっと見逃していたに違いない。
「しかし、そんな証拠を残しておくのはかなり杜撰ですね」
「それはそうですわね。もしも私の立場でしたら、すぐにこの機材ごと処分してしまいますわ」
「確かにそうですね。それをしなかったのは……お金……ですかね?」
あの美術品の山を見る限り、叔父は集めるだけ集めて満足してしまうタイプのように思える。
この機材に関しても単に忘れているだけなのかもしれない。
「よし、これで大丈夫ですね」
「はい。それでは脱出といきますわよ」
これでもうここには用はない。お屋敷から脱出しようと、二人は部屋を出た。
「しかし、これでリーネ様のご両親の死因はマナ中毒の可能性が高まりましたわね」
「ええ、あとはレイヴン様に調べてもらっている資料と合わせれば、かなりの確証が得られるはずです」
単体では可能性の域を出ないが、他の情報と組み合わせれば、確度は高まる。
(もっとも、レイヴン様のほうがきちんと仕事をしていればですけど)
そのあたりはレイヴンのスパイとしての腕の見せどころだろう。
「しかし、これでもまだ犯人が叔父である確証とはならないんですよね」
「えっ? あー、そうですわね。細工が仕掛けられたのは確かですが、誰がやったかまではわかりませんわね」
「そうなんですよね。まあ、何か知っている可能性は高いですし、今のままでも調査対象にはなるでしょうけど」
(でも、それでは面白くないんですよね……)
そもそもの話、リーネは死神だ。例えなんの証拠がなく叔父を断罪したとしても罪に問う人はいない。
やろうと思えば、証拠すら残さず処理することだって可能なのだ。
「やはり、すべてを明らかにして証拠を全部そろえて直接追求したいですよね」
(そうでなければ祖父に自慢できませんし)
これはあくまでも祖父とのゲームのようなもの、きちんとルールに従うからこそ楽しい。
きちんと証拠をそろえて、堂々と叔父を追求するのだ。
それができてこそ、リーネの望みは達成される。
「リーネ様なら大丈夫だとは思いますが、危険なことはなさらないでくださいませね」
心配そうに、というか、呆れるような表情でノエラが言った。
「ふふっ、今から追求するのが楽しみ……おっと?」
あともう少しで屋敷を出られるというところで、リーネが立ち止まった。
「どうかしましたの?」
「いえ、今声が聞こえた気がしまして……多分こっちです」
ふらふらと聞こえた方へと向かっていく。
「ちょっと、リーネ様! 危ないですわよ!」
「大丈夫ですよ。今の私たちを見つけられる人はいませんから」
「あ、そうでしたわね。ついつい……」
ノエラはおそらく忘れているが、玄関に向かわず壁だってすり抜けられるから出ようと思えばすぐに脱出できるのだ。
「この部屋からですね……よいしょっと」
「改めて見るとすごい光景ですわね」
リーネは壁をすり抜けて部屋の中へ入っていく。ノエラも続いて入ってきた。
「ヴェルディオ様、今月の売上報告でございます」
部屋の中には、二人の男性がいた。
一人は、その前に立って報告をしているような使用人風の男性だ。
もう一人は上等なスーツを着た中年の男性。立派な執務机に向かっている。おそらくこれがこの家の主ではないかと思われる。
「これが噂の叔父ですか……」
父には全く似ていない、面影もないその人物をリーネはただじっと見つめた。




