第13話 潜入と無駄
タンブルウッド王国の貴族街、その中でも特に高位貴族が住むエリアのとある家。
その前に、二人の少女が立っていた。
「へぇ、本当に見えないんですのね」
門を守る衛兵の前で楽しそうに手を振るノエラ。
「すり抜けたりもしますよ」
そんな様子をこれまた楽しそうに見ているリーネ。
(ノエラにとっては念願のオカルト体験みたいなものですからね)
「すごいですわ! これがあればどこへでも侵入仕放題ですわ!」
「時間を気にしなければそうなりますね」
「そうですわ! 早くしないと私の体を知らない幽霊に取られてしまいますわ!」
今のノエラの身体は彼女のベッドに転がったままだ。
(もし取られても私がいれば取り返せるのですが……まあ、黙っておきましょう)
そもそも貴族令嬢としては身体を乗っ取られるのは致命的かもしれないというのもあるかもしれない。
「さあ! 早く行きますわよ!」
こうしちゃいられないと、ノエラは急いでリーネの腕を掴んで引っ張り始めた。
「はいはい。なんだか私よりもノエラのほうが積極的ですね」
仕方ないなぁという顔をしながらリーネもノエラに続いて屋敷の中へ入っていった。
「さあ! 探索しますわよ!」
ノエラは浮遊したまま、キョロキョロとしている。
「でも、ノエラ。何をするかわかっていますか?」
「はて……そうでしたわ! 何も聞いてませんでしたわ!」
侵入するということは話したけど、何を目的にしているかは説明していない。
それでここまで手伝ってくれるノエラは本当に人がいい。
「私たちが探しているのは、叔父が両親を殺したっていう証拠ですね」
「何かの書類とかを探すんですの?」
「うん、それがあったらいいですけど」
(さすがにそんな証拠を残しているほど愚かではないでしょう……ですよね?)
しかし、それだけであれば、別にノエラを連れてくる必要はない。
ノエラを連れてきたのは、ノエラの知識が必要だったからだ。
「実は私、この家の空調システムが気になっているんですよ」
「空調システム……ですの?」
何をいきなり? という困惑した表情を浮かべるノエラ。
空調システムというのは、屋敷の中の温度や湿度を調整するための仕組みだ。
人が快適に暮らすための重要な設備になっており、貴族の屋敷には必ず設置されている。
「うん、まあ、理由については向かいながら話しますね。えっと、たしか、こっちでしたっけ?」
勝って知ったる我が家というように、リーネは屋敷の中を進んでいく。
(思い出しますね。この傷、父がつけたやつそのまま残っていますね)
元々この家に住んでいたのだから、配置は当然把握している。
「あー、それにしても、なんだか余計なものがいっぱい置かれてますね。こんな絵画なんて私が住んでいた頃は飾られていなかったですよ」
廊下を歩きながら、リーネは壁に飾られた高そうな絵画を流し見していく。
「この画風見たことありますわね。確か有名な画家の作品ですわ」
「へぇ、そうなんだ。無駄にお金使っているんですね」
(なんだろうぐちゃぐちゃに絵の具を塗りたくった絵にしか見えない)
「これくらいであれば、貴族の見栄というやつですわよ」
「見栄で家を貧乏にしていてはせっかくの絵画も台無しですね」
ちらりとリーネが見つめた先には、押し込まれるように大量の絵画や彫刻が乱雑に置かれていた。
今にも崩れてきそうなほどに積まれたそれは、まるでゴミの山のようにも見えた。
「価値の理解はしていないようですわね」
乱雑に積まれた美術品を見たのか、ノエラが小さく嘆息した。
何かお高い美術品でもあったのかもしれない。
「まあ、今の私たちには関係ありませんけどね」
リーネとしても、絵画はまったくわからない。きっと叔父もそんな感じなのだろう。
(もしかしたら気が合うかも……なんてね)
少し気味の悪い想像をした自分を少し笑いながらリーネは目的地へ向けた歩いた。




