第11話 マナと予測
「……という感じです」
リーネが話を終えて、目を開くと、レイヴンとノエラは固まったままの状態だった。
「なんでしょう? そのなんとも言えないというような表情は」
「いや、そのまんまだけど」
「ですわね……知識としては知っておりましたが本人の口から聞くとこう……くるものがありますわね」
二人の言葉にリーネは満足げに頷いた。
「そうですよね。ちなみにこのときに私は人は死んだら冷たくなるというのを学びました」
「それはどういう……」
「そりゃ、私は両親に挟まれて寝ていたわけですから……ねぇ」
「やめましょう! この話は深堀りしてはいけませんわ!」
ノエラが拒否するように大声を出しながら髪を振り乱した。
(あの時の感覚を共有したかったのに)
少し残念だったが、拒否されては仕方がない。
「まあ、それは今はいいでしょう。しかし、ここで話をやめるわけにはいきませんね」
リーネは自分で話しながら、今だからこそ気になるポイントがいくつかあったことに気がついていた。
「まず一点、事件の日に叔父が来ていたことは間違いないですね」
私の記憶が正しければですけど、とリーネは付け加えたものの、レイヴンもノエラも頷いた。
「投資のお願いでしたっけ?」
「お金に困っていたという雰囲気を感じるな」
「父の雰囲気もどうしようもないという感じでしたからね」
実際、今も事業で失敗しているところを見るに、何も変わっていないのではないかという気がする。
「そして、二点目。眠るように息を引き取っていたという部分です」
「ええ、リーネさんのご家族の死因ですわね」
「ずっと原因不明のままなんだよね?」
「私が聞いた限りだと、窒息に近いような死に方をしたらしいです。実際には苦しまなかったようですが」
思い出しても、両親の死に顔は穏やかなものだった。まるで本当に眠ったままのように。
(それだけは救いだったんじゃないでしょうかね)
「しかし、なぜリーネ様だけが生き残ったのでしょうか?」
ノエラが不思議そうに首をかしげた。
「それが一番の謎ですね。私もずっと考えていました」
リーネだけが生き残ったせいで、犯人扱いされたこともあった。
呪いだなんだとそんなことできるなら苦労しないのに。
「ですが、今の私には思い当たる症状があります」
あるというか、最近できたというか……ちょうどいい、その症状を受けた人が目の前にいる。
「ノエラ……旧校舎で倒れた時のことは覚えていますか?」
「えっ? ええ、例の教室での話ですわよね? あの時は確か、本を開いたら急に眠くなって……」
そこでノエラもレイヴンもリーネの言いたいことに気がついたようだ。
「まさか……マナ中毒か……?」
レイヴンが呟いた言葉、しかし、すぐにノエラが首を振った。
「いえ、しかし、マナ中毒で死者が出たという話は聞いたことがないですわ!」
マナ中毒は魔力によって酔ったり倒れたりすることは知られている。しかし、それで死ぬことはまだ報告されていない。
「マナ中毒になってから長時間放置された事例というのがないのではないでしょうか?」
報告がないというだけで、あり得ないという話ではないのだ。
「しかし……どうなんだ? さすがに今まで一度もないというのは……」
レイヴンが首をひねる。しかし、ノエラは唸るように考えている。
「もしかしたら、マナ中毒で死者が出たとしても、それがマナ中毒だと特定できなかったのでは? マナは一時的に濃くなることはあっても、すぐに拡散していきますし」
マナにはその場に留まる性質はない。空気のようにただ漂うだけだ。
しかし、それが密閉された空間であれば別である。
そう、あの白い本の中のように。
「まさか……本当にそんなことがあったとしたら……」
「例えば知っている人が暗殺の集団とかに使っていてもおかしくはないですよね」
私の両親みたいに……とは付け足さなかったものの、ノエラもレイヴンも顔を青くして、その可能性に思い当たったみたいだ。
当時は夏ではあったが、防犯セキュリティ上、窓は閉め切られていた可能性が高い。
そう、可能性はあるのだ。
「しかし、そんなことが本当に起こるとして、どうやって無理やりマナ中毒になんてさせるんだ?」
「それは……」
一つの推測はある。
(私の考えている通りだとしたら、とんでもなく効率的です)
しかし、それは今は確証ができない。
「方法を確かめるためにも、2人に協力をしてもらいたいのですが……」
「協力ですの?」
「僕はもちろんかまわないけど、何をするんだい?」
「レイヴン様には、行方不明の人物の調査をお願いしたいです」
「マナ中毒で死亡した可能性の有無ってことかい?」
「ええ、例えば冒険者などで、マナの多い地域へ調査しに行った記録などがあれば、マナが原因で死亡した可能性があるかもしれないかと」
「なるほど、それはありえるかもしれない。冒険者ギルドとかに聞いてみるよ」
もちろん、それだけで確定にはならないけれど、可能性は高くなる。調べておいて損はない。
「ついでに死神ギルドで死因不明の遺体の扱いについても調べてもらえると助かります」
「ああ、了解。どういう扱いになっているかも調べてみるよ」
レイヴンの方はこれで良い。
「次にノエラですが……」
「はい、なんですの?」
ノエラはやる気満々のワクワクした表情をリーネに向けてきた。
「ノエラには……私と一緒にとある場所へと侵入してもらいます」
「侵入!? どこへですの!?」
驚きの表情を浮かべたノエラに対して、リーネは怪しく笑みを浮かべた。
「それはもちろん、叔父の屋敷へですよ」
昔のリーネの家、ミゼリオール邸への潜入調査だ。




