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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第二幕 ミゼリオール邸集団死亡事件

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第10話 リーネと過去

 十年前のあの日、リーネはまだ6歳の子どもだった。


「リーネは本当に本が大好きね」


 そう言って微笑む、母、シエーナ。


「親としては、もうちょっと外で遊んでほしいところだけどね」


 仕方ないとでも言うように、苦笑いする父、アルベリオ。


 二人は元々学生時代に出会い、周囲の反対を押し切って結婚。

 その後、アルベリオが二十一歳のときに、リーネが生まれた。

 当主として後を継いでからは、国の大臣として働きつつ、家族を大事にする優しい父親だった。


 優しい父と母に囲まれて、少しズレている少女はそのまま伸び伸びと育っていた。

 穏やかな日常、なんの不満もなかった子ども時代の記憶。

 しかし、そんな日は長くは続かなかった。


「そういえば、ヴェルディオさんが来られたようですけど」


 何かありましたか? と母が父に尋ねている。


(そういえば、今日は来客があったなぁ)

 

 リーネは本を読みながら、なんとなく耳を傾けた。

 叔父であるヴェルディオは父の一歳離れた弟だ。

 親族での集まりでは会ったことはあるが、直接会話を交わした記憶はない。


 そんな叔父のことをリーネは別に気にしたこともなかった。

 要するにほぼ他人という認識だ。

 それでも、耳を傾けたのは父が少し疲れたような声色だったからだ。


「うむ、なにやらいい投資があるから乗らないか? ということだった」


「あら、まあ、またですか?」


 母の声も困ったような声色に変わった。


「ああ、今度こそはうまくいくと言い張っていたんだが……」


 父は言葉をつまらせた。そこには諦観の色があった。


「今回はさすがに断るつもりだよ。あいつもいつまでもこのままでいるのはまずいしね」


「義父さんにも相談しますか?」


「ああ、そうだね。それもいいかもしれないね」


 父の父である祖父ともリーネはあまり会ったことがないが、数少ない会った記憶の中では毎回かわいがってもらっていた。


「それにしても、いったいどこからそんな投資の話を持ってくるんでしょう」


 不思議そうに母が首を傾げた。


「わからない。聞いても教えてくれなかった」


 父は眉を潜めた。


「……あいつは誰かに変なことをそそのかされている。そんな気がしてならないんだよ」


「大丈夫なの?」


「わからん。しかし、最近は色々と妙な動きも多い。ヴェルディオの件も含めて、父さんに相談しよう」


「例の件ね。わかったわ。私の方もまとめておくわ」


 例の件? リーネは不思議に思って本から顔を上げたものの、子どもの出る幕ではないとそのまま本に目を戻した。

 今考えると、このときにちゃんと聞いておけばよかった。なにせ、それについて聞く期間は訪れなかったのだから。



 (喉が渇いた……)


 その日の夜だった。リーネはなんとなく寝苦しくて目が覚めた。

 隣で寝息もたてずに寝ている両親を起こさぬようにベッドから降りてキッチンへと向かった。


「ふぅ……」


 魔導食材冷却装置―通称冷蔵庫から水を取り出してコップに注ぐ。


(随分と静かですね)


 家の中には両親の他に、警備をしている人やメイド、執事、料理人。それなりに多くの人がいる。

 それなのにもかかわらず、この日はとても静かだった。


(まるで一人になったみたいです)


 寂しさはない。それどころか、なんだか静けさが心地よいくらい。

 なんとなく特別な気持ちになったリーネは、そのまま部屋へ戻り、すっかり冷たくなったベッドで再び眠りに落ちた。



 しかし、翌朝のことだった。

 リーネは違和感を覚えた。

 もう日が登っているのに、隣でまだ父と母が寝ていた。


(おかしいですね……いつもならもう起きているはずなのに)


 揺すっても微動だにしない父と母。

 幸いだったのは、昨日非番だったら警備員がおかしいと確認に来たこと。


 そうして、事件は発覚した。


 屋敷内のリーネを除く全員がその日のうちに死んでいた。

 原因は不明。争った形跡や苦しんだ形跡もない。全員がまるで眠るように死んでいた。


 なぜリーネだけが生き残ったのかはわからない。

 生き残ったリーネに疑いの目が向けられたのはしょうがないことだろう。

 しかし、幼い子どもが、全員を一夜のうちに殺害するのは不可能。だから、人々は死因をリーネによる呪いだと噂した。


(本当に一人になってしまいました)


 葬儀が行われる中、リーネは棺を前にして、泣かなかった。

 それを見た周りの人々があの子はおかしいと囁くのが聞こえてきたが、それに対する怒りもわかない。


「大丈夫かい?」


 祖父が優しく声をかけてきた。それは周りの声を受けての心配だったのだろう。

 それに対して、リーネは首をかしげた。


「そうですね。一人になってどうなるか考えているところです」


 リーネの言葉に対して、祖父はあっけにとられたようだ。


「リーネは悲しくないのかい?」


 それに対して、リーネはきょとんとした後に笑った。


「聞いていなかったんですか? 父いわく、私には悲しみや怒りという感情がないらしいです」


 そう言って、リーネは再び棺を見つめた。

 目からはいっさい涙は流れてこない。ただ、自分はこれからどうなるんだろう? そんなことばかり考えていた。


 そんなリーネを祖父が悲しげに見ていたことは覚えている。


 その後、リーネは祖父に引き取られることになった。


「リーネは儂が育てる」


 そう言った祖父の目には、強い決意が浮かんでいた。



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