第6話 お願いと後悔
「さて、ということで、レイヴン様にお願いしたいことなんですが」
二人になったところで、リーネはレイヴンに話し始めた。
「奉納の件についての代価だよね……」
レイヴンは何を言われたものかと、顔を強張らせている。
(そんなに怯えられると楽しくなってきますね)
そんなレイヴンの表情を見て満足しつつ、リーネは話し始めた。
「まあ、軽く説明しますとですね……私の祖父がそろそろ死にそうでして」
「……それは……なんと言っていいのか……」
「普通に寿命なので、あまり気にしないでいいんですが、祖父が心残りがあるみたいでしてね」
「それは僕が聞いていいことなのかい?」
「問題ないんじゃないですかね? というか、うちの……ミゼリオール家の事情を知っていれば予想がつきそうな内容ですし」
そうですよね? とリーネはレイヴンの顔を伺う。
レイヴンはその言葉を受けて、少し考え込んだあと、そのままの表情で頷いた。
「そうだね……なんとなくだけど……」
「言って大丈夫ですよ。多分、当たってますので」
リーネの言葉にレイヴンは言いづらそうにしながら口を開いた。
「あなたのご両親と……今のミゼリオール家についてかな……?」
「ええ、そのとおりです」
リーネは満足した顔で拍手を送る。
やはりレイヴンも今のミゼリオール家について知っているようだ。
「ともすれば、私の言いたいこともわかるでしょう?」
「調査を手伝えと?」
「ええ、生憎と私は貴族周りの事情に詳しくないですからね」
正確には、興味がないから知らない、というのが正しい。
「確かに僕は適任かもしれないね……でもそうか……ミゼリオール家か……」
レイヴンは、むむと唸るように考え込んだ。
悩むの無理はない。ミゼリオール家とレイヴンの実家であるガレンティ家は同じ侯爵家同士であり、同格の貴族である。
(貴族というのはめんどくさいものですね)
現在ガレンティ家とミゼリオール家は特に敵対派閥というわけではないが、変に調べることで敵対行為にもなりかねないのだ。
「……」
リーネは黙ってレイヴンの返答を待った。使徒としての命令や交換条件と言えば、レイヴンも承諾せざるを得ないだろう。
しかし、それをせずにレイヴンの反応を待ったのは、レイヴンを試しているからだ。
「……いいでしょう」
しかし、レイヴンは悩んだ後に頷いた。
「正直、今のミゼリオール家は色々と話題に事欠かなくなっているからね。ガレンティ家としても下調べはしておいて損はないでしょう」
つまり、レイヴンにとっても益があるかもしれないのだ。
もちろん、それだけではない。
リーネがわざわざ調査の協力を申し出てきたのだ。タダで終わるわけがない。
そう判断したのだろう。
「よくできましたね。それで正解ですよ」
無事に答えを導き出せたレイヴンにリーネは満足したように微笑んだ。
(ちゃんと考えられるじゃないですか)
「スパイとして、私の使徒としてきちんと調査をお願いしますよ。変な情報とかを掴まされないように」
「ああ、もちろんだ」
力強く頷くレイヴン。しかし、彼はすぐに動きを止めた。
「ひょっとして僕が協力断っていたら使徒として裏切りになっていた……?」
「さあ、どうでしょうね?」
ふふっっと笑って誤魔化すリーネ。
「きっと、おそらく、私の気分次第なんじゃないですかね?」
つまりレイヴンはリーネの気分次第で大変な目に遭うということになる。
「……今ほど君の使徒になったことを悔やんだ日はないよ」
その可能性に気がついたのか、レイヴンは青ざめた顔で呟いた。
本当に「やってしまった」という顔をするレイヴンを見てリーネは大きく笑ったのだった。
そうして調査をお願いしたところで、エグバートが戻ってきたので、その話はそこで終了となった。




