第4話 義務と奉納
大きな扉をゴゴゴと開けるとすぐに目の前に飛び込んできたのは鮮やかなステンドグラス。
そして、そこから光が注がれた大きな神像だった。
ただし、ただの神像ではない。その姿はローブをまとい、背中には大きな鎌を背負っている。
そう神は神でも死神だった。
「リーネ様ようこそおこしくださいました」
そんな教会風の建物の中、神父のような格好をした好々爺がリーネを迎え入れた。
「依頼を受けていただきありがとうございます」
彼はこのタンブルウッド王国の死神ギルドのギルドマスターであるエグバート・ハインリッヒだ。
「いえ、死神の義務みたいなものですから」
深く頭を下げたエグバートに、リーネはにっこりと笑って答えた。
完璧な淑女の笑顔だ。リーネの本性を知っているレイヴンなどが見たらきっと苦笑いするに違いない。
「それで魂石の奉納でしたよね?」
「はい、リーネ様はどのような手順でやられるかご存知でしょうか?」
「魂石を奉納するだけでは?」
もちろん、やり方はわかっている。死神になった時に、知識を埋め込まれている。
「はい、そちらについては大丈夫でしょう。しかし、死神ギルド特有の事情もありまして」
「特有の事情ですか?」
「はい、まず簡単に説明いたしますので、こちらにおかけください」
勧められるままに席に着くリーネ、その後ろにレイヴンが立った。
「それで事情なのですが、リーネ様は人が亡くなられた際にどのようなことが行われるかご存知でしょうか?」
「はい、うちは父と母が亡くなっていますので」
「それは……失礼いたしました」
「いえ、もう何年も前のことですので」
「そうでしたか、では軽くおさらいをしておきましょう。まず人が亡くなると、その人の死を悼む人々が集まり、葬儀が行われます」
これにリーネは頷いた。確かにそうだった。ちなみに侯爵家ともなれば、葬儀にはそれはもう多くの人が集まった。
「人々はそこで故人に別れを告げます。その後、遺体は死神ギルドへと運ばれます」
「そうなんですか?」
リーネはそれを知らなかった。そういえば葬儀を行ったあとの両親の遺体がどこに行ったのかなんて確認したこともなかった。
「はい、死神ギルドではなくなった方のご遺体を一定期間お預かりし、まとめて魂石化の処理を死神様に行っていただいております」
言われてみれば、納得のいく流れだった。
「たしかに、個別の案件にすべて死神が絡むわけにもいかないということですね」
普通に考えれば当然のこと。
(いちいち、葬儀に顔を出していたらめんどくさすぎますからね)
「ええ、そういうわけで、今日のように死神様がいらっしゃったときににまとめて魂石化と奉納を行っていただいているわけです」
「それはとても合理的ですね」
きちんと死神側の事情を考えていることに、リーネは感心した。
そして、同時に新たに一つの疑問も浮かんできた。
「今の王都には何人ほどの死神がいるんですか?」
死神という存在は、神によって選ばれる特別な存在だ。しかし、世界でリーネだけというわけではない。
「現在の王都……といいますか、タンブルウッド王国内において正式な死神様はリーネ様お一人です」
「それは随分と人材不足ですね」
「われわれの不徳とするところです……」
からかい半分だったのに、エグバートは本気で落ち込んでいるようにも見えた。
徳があったら死神が増えるというわけでもないだろうに、責任を感じているのだろうか。
「しかし、前任者はどうしたのですか?」
現在の……ということであれば、前任者がいたはずだ。というか、少なくともリーネの両親の遺体を担当した死神はいたはずだ。
「それが……実は一ヶ月ほど前に、退任されまして……」
「退任……死神の能力がなくなったということですか?」
「いえ……」
エグバートは言いづらそうにしながら口を開いた。
「前任者の死神の方は一ヶ月ほど前に殺されてしまったのです」




