第2話 祖父と叔父
「ヴェルディオというのは誰でしたっけ?」
聞いたことはあるはずなのだが、なんだか人と結びついてくれないリーネは、祖父に尋ねた。
「ヴェルディオはもう一人の儂の息子じゃ」
「あー、叔父でしたか。そういえばそんな名前でしたっけ」
ヴェルディオは父親の弟であり、リーネからすると叔父にあたる人物だ。現在のミゼリオール家の当主でもある。
「ええ、噂には色々と聞いていますよ。どうも、今のミゼリオール家の評判は随分なものらしいですね」
もちろん、皮肉だ。基本的に貴族社会に興味はないリーネだが、貴族学校に通っている以上、そういった話は耳に入ってくる。
「また事業で失敗したとか? これで何回目ですかね?」
「さあの。とりあえず、お前を儂の方で引き取っておいてよかったわい」
本来であれば、リーネは叔父であるヴェルディオに引き取られるはずだった。しかし、祖父がそれを制して、リーネを引き取ったのだ。
もっとも叔父の方も、リーネを引き取る気などさらさらなかったようだが。
(誰も狂った令嬢なんて引き取りたくないですよね)
それでも祖父はリーネを引き取ってくれたのだ。
「今更ですけど、なぜ私を引き取ったんですか?」
なんとなく、興味が湧いたリーネは尋ねてみた。本当に今更である。
「ふむ……ちょっとヴェルディオの良くない噂を聞いてのう」
「良くない噂ですか? どんな噂ですか?」
リーネの言葉に祖父は話すべきかと少し逡巡したようだったが、「ここだけの話」と前置きをして話し始めた。
「お主の両親であるアルベリオたちの事故だが……ヴェルディオが何か関わっているのではないかという噂があったのじゃ」
「なるほど……」
リーネは、その話を聞いても特に驚かなかった。単に祖父が話しづらそうにしていたのは、そういうことだったのかと納得しただけである。
「まあ、単なる噂の可能性もあったが、正直、あやつならばやりかねんと思ったのも事実じゃ」
「私、叔父のことはよく知らないんですが、そういう人なんですか?」
「あやつはな……優秀だったアルベリオと比較されることが多くての、その部分で劣等感を持っておった。そして自分の方が優秀だと証明するためにならば、手段を選ばない性格じゃ」
「ふーん、そうなんですか」
リーネはほとんどかかわりのない叔父のイメージを構築していく。
きっと周りのことなど見えない人だろうと。
「それで、つまり、叔父は父を殺して家督を奪い取ったと?」
「そういう噂があっただけじゃ……儂の方で調査をしていたのじゃが……ついにはお前の父の死因すら不明のままじゃ」
公式には、両親の死因は事故で死亡ということになっている。しかし、本当の死因は不明のままだ。
「それだけが心残りじゃな……」
祖父はそういうと、少し寂しそうに笑った。
過去を悔やむような一人の親の姿がそこにあった。
(過去には大臣にまで上り詰めた大貴族の姿には見えませんね)
もっともリーネはその頃の祖父の姿を知らないが。
しかし、今そんな祖父の姿を見て、リーネは思った。
「ふむ、それでは私がその死因を特定してみましょうか? お祖父様を安心させてあげますよ」
純粋な笑顔を浮かべてリーネは言った。言葉だけで聞けばもうすぐ死んでしまいそうな老人を安心させるという、なんとも優しい提案だ。
「ほう、それは頼もしいのう。お前がそう言うのであれば、本当にできてしまいそうじゃ。で?」
祖父はにやりと笑う。
「何が目的じゃ?」
祖父は知っているのだ。リーネが父の死にすら興味を抱かなかった少女が、自分を安心させるためだけなんて理由で動く子じゃないことを。
「お祖父様が長年調査を続けてきて、見つけられなかった。それを私が短時間で見つけたら、お祖父様はいったい、どんな表情をするでしょうね」
リーネはうっとりとしたような表情でそう言った。
「はは、やっぱりお前はどこででも生きていけるわい」
それを見て、祖父は大きく笑った。




