第22話 遺体と能力
「これどのくらい放置されていたんでしょうね」
展開された部屋は小さいはずなのに、そこから吹き出てきたこもった空気に思わず、顔をしかめながらリーネは呟いた。
「遺体の状況を見るに少なくとも数十年は経っているだろう」
隣のレイヴンも同じように顔をしかめながら、小さな人形のようになっている遺体を見て答えた。
遺体は完全に乾燥しており、肌の色は黒く変色している。人形がボロボロの布をまとったようにも見える。
「しかし、割と顔がはっきりと残っていますね。これでしたら特定できるのでは?」
「そうだね。えっと、それじゃあ、遺体を確かめようか」
「どうやってですか?」
「えっと、それは……うーん?」
本の中に展開されている空間はミニチュアサイズだ。入ることはできない。というか、入り方がわからない。
「えっと、触れたら自動的に小さくなるとか?」
「おそらくそうでしょうね」
「ああ、それじゃあ、僕が……」
そう言ってレイヴンは小屋に触ろうとして、
「……死にたいんですか?」
「えっ?」
何気なくリーネが言った言葉に、レイヴンがピタリと止まった。
「死ぬ? ここに入ったら死ぬのかい?」
「いえ、その可能性もあるということです。そもそも、彼がなぜあの状態になったのかわかっていませんからね」
今わかっていることは、本の魔道具によってこの空間を作り上げたはいいもの、そこに彼が閉じ込められてしまったということだけ。
なぜ閉じ込められたのかなんてことはわかっていない。
「危険性を理解せずに入るのは無謀と言わざるを得ませんね」
「それは確かに……でもどうするんだい?」
「そういう時はこうしてしまえばいいんです」
リーネが手をかざすと、白い細い糸のようなものが出てきた。
「死神というのは本当に便利ですね。やろうと思ったら大抵のことはできてしまう」
神の使いとも言われる死神の力。それは魔法よりも強力、まさに万能ともいうべき力だ。
白い糸を伸ばし、部屋に触れさせた瞬間、プツリというような音とともに、本の中の空間に細くなった糸が現れた。
「どうやら一定の距離に近づくとサイズが変わるみたいですね」
そもそもどうやってこの本の中に入るのかと不思議に思っていたが、どうやら近くに寄ると自動的に小さくなる仕組みらしい。
(魔法というのは凄いですね。いったいどういう仕組みなんでしょう)
魔法に詳しくないリーネにはさっぱりだった。
とはいえ、リーネにはもっと便利な力が使える。
細くなって見えづらくなった糸を巧みに操り、リーネは人形のような遺体に巻き付けた。
「これで安全に外に持ち出せますね」
「便利な力だね……」
レイヴンが呆れたような、諦めたようなそんな表情を浮かべて呟いた。
糸で慎重に引っ張り出していくと、小さな遺体が本から出てきた。
完全に外に出た瞬間、ゆっくりと遺体が大きくなってきたので、慌てて地面に降ろした。
数秒ほどで遺体は元の大きさに戻った。
「ふむ、無事に出せましたね」
「ああ……この人……誰なんだろう」
レイヴンは不思議そうに遺体を見つめた。
「さあ? それはわかりませんね。私にわかることはこの人が最後まで抵抗したということだけです」
「抵抗? どうしてそんなことがわかるんだい?」
「空間内には大量のマナがあったでしょう。おそらくこの方は、なんとか脱出をしようとしたのでしょう。必死で魔法を使い続けた結果なのではないかと」
「そっか……」
レイヴンの表情が曇った。きっと想像してしまったのだろう。この人がどれほど必死に逃げようとしたかを。
「あら、適当なことを言ったんですが、そうなんですか? 私魔法にはあまり詳しくないのでそういうものなのかわからないんですが」
「リーネ嬢……」
レイヴンが「空気を読め」というような表情でリーネのことを見てきた。




