第20話 答えと間違い
「それでは早速その元へ向かいましょうか」
リーネはそう言って旧校舎の廊下を進み始めた。
「この流れだと場所は君たちがいた部屋かな?」
レイヴンも立ち上がり、リーネの後を追う。
「ええ、もちろん。しかし、教室に遺体があるわけではないですからね。教室にたどり着いたら答え合わせしましょうか。私が勝ったら何をしてもらいましょうかね」
ふふふと笑うリーネ、その後を追うレイヴンには額から汗が浮かんでいた。
奴隷から解放されたばかりだが、結局は元通りのままではあるのだ。
ガラガラと古びた扉を開けて、二人は教室に入った。
教室の中は埃っぽい匂いが漂っている。前に来た時とほとんどが同じだ。
「さて、ではあなたの答えを聞かせてもらいましょうか」
教室の真ん中まで進んだリーネは振り返り、レイヴンに尋ねた。
「さあ、レイヴン様、あなたはどこに遺体があると思いますか?」
リーネの問に、レイヴンは少し考えた後に答えた。
「確認するけど、この部屋じゃないんだよね?」
「ええ、そうですね。見ての通りです」
教室を見渡すけれど、そこには当然のごとく遺体はない。
机や椅子、そして放置された本などがあるだけだ。
「そうなると隠し部屋……とかかな?」
「ほう、それはどうしてそう思ったのですか?」
リーネは楽しそうにレイヴンに尋ねる。
「単純に状況証拠かな。君は穢の発生源はここにあると言った。でもこの教室には遺体はない。だったら、この部屋からつながるどこかから穢が漏れ出ていると考えるのが自然だと思うんだ」
「なるほど、それで? その隠し部屋はどこにあるんですか?」
見ての通り何もありませんが? とリーネは教室を見回す。
「うん、確かに何もないね。そもそもそんな隠し部屋が見えるようなところにあったなら、ここを引き払うときに見つかっているはずなんだ」
そう言いながらレイヴンはリーネに近寄ってくる。
「だから、通常だと見つからない手段。例えば……魔法でそれを隠したんじゃないかと思うんだよ」
「ほう、魔法ですか」
「ノエラ嬢が使っていたという魔道具でもここに魔法の痕跡があるって示されたんだろう? つまり過去にそれだけ大規模な魔法が使われたんだと思うんだ。例えば……空間魔法みたいな」
レイヴンはリーネの目の前で足を止め、そして地面に手をついた。
「何をしているんですか?」
「仮に魔法がかかっているのであれば、それを解けば隠し部屋が現れるはず。そのために君は僕を連れてきたんだろう? ガレンティ家はその手の魔法が強いから」
言いながらレイヴンがなにやら呪文を唱える。
地面についた手から地面に向かって青白い光が広がり、魔法陣を描いていく。
「解除の魔法。これで隠し部屋が現れるはず」
魔法陣が完成し、地面が光る。そしてその後には……
「何もありませんね」
特に変わっていなかった。
「魔法が失敗した……? いや、そんなはずは……」
レイヴンはもう一度地面に手をつこうとしたが、リーネはそれを制した。
「いい見世物でした。あなたの無駄な努力を見られて、私は満足です」
いや、静止ではなく普通に拍手をしていただけだった。
「面白かったですよ。あなたが見当違いなことを言っているのが」
「見当違い……?」
「そうです。そもそも、私、あなたの家が魔法に強いなんて知りませんからね。そもそもどうして知られていると思ってたんですか?」
「えっ、いや、その……」
にやりと笑うリーネに、どうやらレイヴンは自分が大きな勘違いをしていたことに気がついたようだ。
そして同時に思い込みで滑稽な姿を見せたことにも気がついたようだ。
「もちろん、あなたを連れてきたのには理由があります、が、理由はまったく違います」
言いながらリーネは、教室の後ろの方へ歩いていく。
「とはいえ、あなたの推理も随分といい線まではいっていたんですよ。遺体は確かに隠し部屋にあります。そして、魔法によってその隠し部屋が隠されているというところまでは正解です」
「いや、でも実際に隠し部屋はなかったじゃないか」
言っていることが矛盾しているとレイヴンは首をかしげた。
「ええ、そうですね。でも、魔法というのは人が発動する以外にも発生させる方法がありますよね。例えば……」
そう言ってリーネは、地面におちていたそれを拾った。
「魔道具……とかね」
リーネがレイヴンに示したそれは一冊の古びた本だった。




