第19話 ご褒美と侵入
「さて、契約も結んだことだし、さっそく行きましょうか」
「どこへだい?」
「先日の事件の結末を見届けにですよ」
リーネはそう言うと、立ち上がった。
「リーネ様は……何か知っているのですか?」
そんなリーネにレイヴンは戸惑ったように尋ねてきた。
「言葉は普通でいいですよ、レイヴン様。そのほうがお互いに良いでしょう」
レイヴンはスパイとしての身分があるから、リーネとしては、それを見ているレイヴンを見るのが面白いからだ。
「了解した。それで、リーネ嬢は何か知っているのかい?」
「ええ、おおよそのところはわかっているつもりです。本当は答えが出るまで待つつもりでしたが……」
ただの奴隷から使徒になったレイヴンへリーネからのご褒美のようなものだ。
「まず向かう場所は旧校舎です。これについては説明するまでもないと思いますが」
オカルト研を出て、歩きながらついてくるレイヴンを振り返らずにリーネは言った。
「ああ、被害者……意識不明になった人が発見されたのは旧校舎のあたりが多いからだよね」
「ええ、そうです」
これはノエラの推測、そして死神ギルド側も同じ考えだったことから、間違いない。
レイヴンもそれに異論はないようだ。
「着きました。早速入っていく……その前に……」
会話をしているうちに、旧校舎の前に到着した。
しかし、リーネは立ち止まり校舎から少し離れた場所にしゃがみこんだ。
「どうしたんだい? あれ? それは」
「何かが通った跡ですね」
リーネが見つめる先には、以前にもあった草が倒れている場所。
「私はこれを見たときに、野生の動物が通ったのかと思いました」
「近くには森があるからそこから出てきたのかもしれないね」
「ええ、ですが、よく見てください。違和感に気が付きませんか?」
「違和感?」
リーネに促されてレイヴンもしゃがみ込んで跡を見る。
「あれ? 色が違う?」
レイヴンの言う通り、倒れた草は一部が色が違う。
「ええ、これは何かに踏まれたわけではなく、一部だけが枯れ始めているのです」
健全な部分は緑色をしているが、茶色く変色している部分がある。
「踏まれてから枯れ始めたとかでは?」
「ええ、その可能性ももちろんあります」
そう言いながらリーネは立ち上がった。
そして振り返らず近くの窓によっていく。
「さて、入っていきますよ」
そこは以前も侵入したずっと開いている窓だ。
「あっ、ちょっと! 校舎の鍵預かっているから」
ポケットからジャラジャラと鍵を取り出すレイヴン。
(そういえば、生徒会長でしたっけ)
鍵があるのであればわざわざ窓から入る必要はない。生徒会長としてもそんな侵入などしたくないのだろう。
「しかし、今は不要ですね」
が、リーネは無視して窓枠に手をかける。
「ちょっと!」
「レイヴン様も早く来てください」
振り返ってみると、レイヴンは困ったような笑みを浮かべながら周りを警戒した後にリーネに続いて窓を乗り越えてきた。
(生徒会長が窓から旧校舎に侵入、なかなかいい絵ですね)
入ってくるレイヴンを見て、リーネは心の中でそう呟いた。
「もちろん、嫌がらせで侵入したわけではありません」
その面がないではないが、三割程度だ。
「これを見てください」
そう言ってリーネは再びしゃがみ込んだ。
「今度はなんだい……」
呆れたようにレイヴンも同じようにしゃがみ込む。
しゃがみ込んだ二人の前には、なんの変哲もない床が広がっている。
「ボロボロの床が見えますか?」
「うん、まあ、ずっと使われていないからね。そういうものだろう?」
「ええ、ですが、例えばこの部分、まるで腐ってしまったように見えませんか?」
リーネが押したのは床の一部。まるで長いこと水に浸っていたかのようにふにゃふにゃになっている。
「確かに、でも老朽化じゃないかな?」
「この部分だけがですか?」
「……変だね」
レイヴンもそれを押してみる。確かに他の部分と違い、ふにゃふにゃしている。
廊下にもところどころにこういう部分があるのをリーネは気がついていた。
「これは床の素材である木が一気に老朽化したのでしょう」
さてと言いながらリーネは立ち上がった。
「枯れた草、そしてこの床の状態……私は両者は同じ者によってもたらされたものだと考えます」
「同じ物……? それはひょっとして……」
「ええ、穢です」
穢は近くにあるだけで周囲の生物に悪影響を及ぼす。
そう生物というくくりだ。
「つまり、草を枯らし、木の床を腐らせるというのもありえる話ではないですか?」
「確かに……」
リーネの言葉にレイヴンは何かを思い出したように呟いた。
「穢の影響で森が枯れたりなどは聞いたことがある」
どうやら実例もあったようだ。
「これが校舎内にもあることから、穢の発生源はこの校舎内にあると考えるのが自然でしょう」
「それはそうかもしれないね。外から出て中へはいるよりも、中から出て外に出るほうが自然だ」
なにせ穢がわざわざ校舎内に入る理由はないのだから。
……もちろん、特別な場合を除いての話だが。




