第18話 レイヴンと使徒契約
「使徒だって?」
(どうやら使徒の説明は不要みたいですね)
神であるリーネの使徒になることで、レイヴンはリーネの保護下に入ることができる。
そして、その見返りとしてリーネを絶対とするという契約が発生する。
「使徒契約を交わすことが重すぎるから護衛騎士という制度が出来上がったと聞いているけど……」
「そうなんですか? いえ、そうでしょうね。なにせ使徒契約を交わすことによって、違反したらあなたは死ぬことになりますからね」
神との契約になるのだ、その代償が大きいのは当たり前だ。
「もちろん、あなたにもメリットはありますよ。使徒契約を交わすことによって、あなたに私の力の一部を分け与えることができます」
例えば、通常の人間ではありえないような身体能力だったり、強力な魔法だったりを使うことができるようになる。
「それに……私の使徒になれば、あなたに面白い世界を見せてあげることを約束しましょう」
楽しげに笑うリーネに、レイヴンの目が少し揺れているようにも見えた。
それは、ひょっとすると期待のようなものかもしれない。
しかし、すぐにレイヴンは真剣な表情に戻って頷いた。
「わかった。どのみち、僕には選択肢がないみたいだしね」
結局は選択肢がないという、消極的な理由ではあったようだ。
その表情はやはり無表情だったけれど、少し笑っているようにも見えた。
「それでは、使徒契約を結びましょう」
そう言うと、リーネは、目を瞑る。
リーネの身体から黒い煙のようなものが吹き出し、リーネの身体を包みこんでいく。
その煙は実体を持ち、やがてリーネの身体を覆うローブとなった。
空気が一変したのがリーネ自身も分かった。
これからやるのはいつものような遊びではないのだ。
「レイヴン・ガレンティ」
リーネは身を引き締めつつ、レイヴンの名前を呼ぶ。
背中の大鎌を引き抜いてレイヴンへと向ける。大鎌の刃が光を反射して、鋭く輝いた。
レイヴンは一瞬、後ずさったが、すぐにリーネの前にひざまずいた。
「あなたと使徒契約を結びます。あなたは私の使徒となり、私を絶対の主として従うことを誓いますか?」
レイヴンはその言葉を聞いて、目を伏せたまま静かに頷いた。
「もちろんです。私はリーネ様の使徒となり、絶対の主として従います」
「よろしい。では……あなたの命を私が受け取ります」
リーネはそう言うと、大鎌を振りかぶり、レイヴンに向かって振り下ろした。
レイヴンの身体は真っ二つに切り裂かれ、その境目からは黒い煙が吹き出す。
煙はレイヴンの身体を包みこんでいき、やがて再び元の姿へと戻っていく。
(まるで一度死んでいるようにも見えますね)
実際そうなのかもしれない、今彼の身体は一度天に召され、そうして新しい身体にて再構成をされたのかもしれない。
「契約は結ばれました」
何事もなかったかのうように元の姿に戻ったレイヴンが立ち上がるのを見て、リーネは言った。
「これであなたは私の使徒です。せいぜい私を楽しませてくださいね」
今までの荘厳な雰囲気はどこへやら、リーネは軽い口調でそう言った。
「ええ、このレイヴン・ガレンティ。最善を尽くすと誓います」
レイヴンはまっすぐとリーネを見つめて、少し微笑みを浮かべた。
「ええ、奴隷から数日で使徒に昇格したあなたのことを期待していますよ」
「……結局ほとんど何も命令されることはなかったじゃないか」
「まあ、使徒も奴隷も同じようなものでしょう?」
「……神様に怒られそうだ」
「大丈夫です。あなたの神は目の前にいるんですから」
そう言って、二人は笑った。
そう結局、二人の関係は名前が変わっただけで何も変わっていない。
しかし、こうして二人の契約は本物となった。
全く正反対の二人による奇妙な関係がここに始まったのだった。




