第15話 感情と追求
「えっと、冗談とか……だよね?」
レイヴンは固まったままリーネを見つめてきた。
「いえ? 本気ですが? ああ、もちろん、そういう感情があることはわかっていますよ。しかし、なぜだか、自分ではそういう感情になることができないんですよね」
不思議ですよねとリーネは続ける。
それを聞いてレイヴンは唖然としていた。
「感情が……ない?」
「ないというと語弊がありますね。どうやら私は生まれつき、怒りと悲しみという感情が薄いらしいのです」
だからこそどんな噂を流されようと、それで苛立ったりなどはしない。そもそも、できないというのが正しい。
「そんな人がいるなんて……」
「ええ、びっくりですよね。おかげで色々と勘違いされることも多いですが」
先程のレイヴンのようにと口にはしなかったが、どうやら、レイヴンは自分もそうだと気がついたらしい。
「それは……すまない。私も色々と思い違いをしていた」
「ええ、それはそれで滑稽で面白いので放置してますけどね」
「……そのせいで勘違いを量産しているのではないか?」
レイヴンが何か言ってきたけど、リーネは気にしない。
「ついでに言っておくと、私は魔法も使えませんよ。両親は間違いなく貴族なのに、どうやら私には受け継がれなかったらしいです」
この国において貴族は魔法を使えることが当然とされている。しかし、両親は間違いなく貴族であるのにリーネは魔法を使うことができない。
「それは……大変なことだな」
同じく貴族であるレイヴンはその大変さがわかるらしい。リーネの事情は貴族にとっては致命的とも言っていいほどのハンデだ。
「ですが、私はそれも特に気にしていません。おかげでこうやって自由にやらせてもらえていますからね」
もちろん過去には色々とあったが、今はかなり自由の身だ。
「そうか……君は随分と強いんだな……」
レイヴンはしみじみと言った。その瞳にはどこか羨ましいという感情が入っているように見えた。
「そういうあなたはどうなんですか? なぜ侯爵家の跡取りが死神ギルドの下っ端なんかやっているのですか?」
レイヴンは次期ガレンティ侯爵家の当主である。そんな彼が国とは関係ない組織である死神ギルドに所属しているというのは奇妙な話だ。
「それは……そう、死神という存在に興味があったからだよ」
「興味……ですか?」
「そうそう、死神の力や存在意義について子供のころから興味があってね。それで、父上を説得して学生の間だけ所属させてもらっているんだ」
「なるほど……」
レイヴンの答えは納得できるものだった。
確かに死神という存在は畏怖されてはいるが、そこに興味を持つというのはありえない話ではない。
しかし、
「それ、嘘ですよね?」
リーネは静かにレイヴンの瞳を見つめてそう言った。
「嘘ですよね?」
確信を持って放ったリーネの言葉に、レイヴンは驚いた表情を浮かべた。
「そんな、嘘をつくわけがないじゃないか」
しかし、次の瞬間にはいつも通りの笑みに戻っていた。
「僕にそんな嘘を言う理由なんてないだろう?」
やれやれとでも言うように肩を竦めるレイヴン。しかし、それを見てリーネは確信した。
「ふむ、言えない立ち位置ですか。となると、さしずめ、あなたは王国から派遣された死神ギルドへスパイとでも言ったところでしょうか」
リーネの指摘に、レイヴンは再び驚きの表情を浮かべた後にすぐに破顔した。
「僕がスパイ? そんな、まさか」
ありえないよと言って笑うレイヴン。大げさに手まで振って否定する。
「ええ、あなたの立場からすれば、そう言わざるを得ないでしょうね」
「うーん、どうしても君は僕のことをスパイだと思いたいみたいだね」
レイヴンは困ったように肩をすくめている。
「何か根拠でもあるのかい?」
ないだろう? とでも言いたげなレイヴンだったが、
「ええ、もちろん、無根拠でこんなこと言い出しませんよ」
レイヴンの言葉にリーネは自信満々に頷いた。




