第13話 風紀委員長と証拠
「さて、君はなぜ呼び出されたかわかっているかね?」
エガードは対面に座ったリーネを睨むように問いかけてきた。
「さあ? 知りませんが? 私は特に誰かに迷惑をかけた記憶もございませんし」
これは本音だ。多少授業をボイコットなどはしているが、他人に迷惑をかけたつもりは一切ない。せいぜいちょっとからかったくらいだ。
「ちっ、君には今ノエラ・ユラシエル嬢が昏倒した件への関与が疑われている」
「具体的にはどういうことですか?」
「君が彼女に何かをしたのではないかという疑いだ」
「なるほど」
リーネは納得したように頷いた。タイミング的にこれ以外はないと思っていたが、念の為の確認だ。
「君がもしもノエラ嬢を害したとなれば、学園にいさせるわけにはいかない」
それはエガードからの通告だった。お前を退学にしてやるぞという。
「ふむ、そうですか。それは大変なことですね」
リーネは淡々と答えた。まったく動じていない。
「時に風紀委員長、私がノエラを害したという証拠はお持ちなのですか?」
「先日の放課後、君とノエラ嬢が二人だけで人気のない場所へ向かっていったという報告がある。そしてその直後にノエラ嬢は昏倒している」
「それだけですか?」
「それだけで十分だろう」
エガードはさも当然のように言い切った。
(どうやらレイヴン様からは何も聞いていないみたいですね)
もっとも、何か聞いていたらこうして呼び出すこともなかったはずだが。
「はぁ、つまり、風紀委員長様は証拠もないのに、私のせいだと決めつけたというわけですね?」
こうして喧嘩を売ってきたのはエガード自身の判断ということだ。
「貴族ともあろうものが、証拠もなしに人を決めつけるなどとは、随分とお粗末な話ではありませんか?」
「なんだと!?」
リーネの言葉に、エガードは激昂したように立ち上がった。
「事実、ノエラが昏倒した後にも話していますよ。こんなお粗末な噂を流したのはどこのどいつだ、ということを」
「なんだと!?」
先ほどと同じセリフだったが、今度のエガードには動揺が混じっていた。
「通常ではありえないスピードで噂が広まっていましたからね。これは誰かの介入があるに違いないと、仲良く二人で調査をしたところです」
そしてその結果はもう出ている。
リーネはまっすぐとエガードを見つめる。
「風紀委員長様は何か知りませんか? こんな馬鹿みたいな噂を広めた犯人のことを」
「そ……し、知るわけがないではないか!」
必死で否定するエガードを見て、リーネは内心笑ってしまった。
(そりゃ自分で広めたなんて言えませんよね)
そう、リーネとノエラの調査で浮かび上がってきたのは、目の前の風紀委員長であるエガードだった。
なにか知らないが、エガードは二人のことを目の敵にしていて、今回は退学へと追い込むために噂を広めたのだと思われる。
「は、話は以上だ! 今後は気をつけたまえ!」
自分の立場がまずくなったと考えたエガードは追い払うようにリーネに退出を促す。
「ええ、あ、犯人を見つけたら報告しますね。私たちの名誉のためにもそいつには責任を取ってもらわないといけませんから」
リーネはそう言い残して風紀委員室を後にした。
退出するまえにちらりと後ろを振り返り、エガードの顔を確認したところ、わなわなと震えていた。
(あー、面白かったですねぇ。しかし、風紀委員長があんなのだと学園が不安になりますが)
そんなことを考えながら部屋を出ると、ちょうど目の前に知った顔が現れた。
「おや、レイヴン様ではありませんか」
「リーネ嬢……大丈夫だったのか?」
レイヴンはリーネの様子を心配そうに尋ねてきた。
「風紀委員に呼び出されたことですか? ええ、特に問題はありませんよ」
ニッコリと笑うリーネを見て、
「遅かったか……」
レイヴンは逆にため息をついた。
「はぁ、それより……ちょっと良いだろうか、少し話したいことがあるのだが」
「はて、次は生徒会長様からの呼び出しですか? まあ良いでしょう。今の私はちょっと気分が良いですからね」
リーネはそう言って、レイヴンを伴って歩き始めた。
(レイヴン様の用事とはなんでしょうね、話したいこと……さてなんでしょうか)
後ろについてくるレイヴンをちらっと見ながら、リーネは何を言われるか楽しみにするのだった。




