第12話 呼び出しと従兄弟
「リーネ・ミゼリオールさんですね。放課後に風紀委員室にお越しいただけますか?」
リーネがそんな呼び出しを受けたのは、また次の日のことだった。
「なぜですか?」
リーネはわざとらしく首をかしげた。
「えっ? それは……」
まさか聞き返されると思っていなかったのか、声をかけてきたクラスメイトの風紀委員の男子生徒はあからさまに戸惑ったように口をモゴモゴとさせている。
「僕は委員長にそう伝えてほしいと言われただけだから……」
「ふむ、つまりあなたには何も伝えられていないと?」
「そういうことです」
それを聞いて、リーネはうーむと唸る。
「わざわざ貴重な放課後に呼び出しておいて、何も詳細を伝えられないとは、随分と無責任な話ではないですか?」
「それは……」
「ええ、わかっています。あなたは委員長に言われた通りに動いているだけなのですから」
あなたも大変ですね、とリーネは続けた。
そこには、言われたとおりにしか動けない無能、という意味が込められているのは明らかだった。
「と、ともかく伝えたから!」
そう言い残して、風紀委員の男子生徒は慌てて去っていった。
(ああ、もうちょっとからかいたかったのに)
会話はすべて茶番だった。呼び出される理由なんてわかっている。
男子生徒だって予想はできていただろう。
しかし、この場で話すことはできない。お互いにそれがわかっていてこその、ただのからかい。
(さてさて、ようやくのご対面というわけですか)
この呼び出しをむしろ待ち遠しく思っていたリーネは静かに微笑みを浮かべたのだった。
「失礼します」
放課後になってリーネは風紀委員室へとやってきた。
扉を開けて中へ入ると、その中は通常の教室と同じほどの広さがあった。
机はロの字型に配置されており、会議などができるようになっている。
壁には、歴代の委員長の肖像画らしきものが飾られていた。
(なんとも息苦しい空間ですね)
遊び心が全く感じられない。こんな部屋にいる人間はきっと頭までカチンコチンに違いない。
「リーネ・ミゼリオールだな?」
声をかけてきたのは、どこか威圧的な表情をした男子生徒。
カチンコチンの風紀委員室にふさわしい、堅物そうな雰囲気を纏っている。
「そうかもしれませんね。ところであなたは?」
リーネが尋ねると、男子生徒は露骨に不機嫌な顔になった。
「君は自分の通っている学園の風紀委員長の顔も知らないのかね」
それだけ言えばわかるだろうとでも言うように、彼は背を向けた。
「ええ、知りませんが? 興味ありませんし」
しかし、リーネは平然と答えた。今の会話でわかった情報は目の前の男子生徒が風紀委員長であるということ。
名前は先日調べたから知っているが、自分の口から出すつもりはない。
「自分の名前を知っていて当然だと思っているのは高慢なのではありませんか? たかだか風紀委員長ですよ?」
だから喧嘩を売るように返す。
「ふん、エガード・ミゼリオールだ」
忌々しいというように名乗った彼は続いてリーネを座るように指示をしてきた。
そう、彼はリーネと同じくミゼリオール家の人間だ。もっとも、兄弟などではなく、関係性としてはリーネの父の弟の息子という関係。つまり、従兄弟にあたる。
ちなみに彼は次期ミゼリオール家の当主の予定になっている。なお、リーネと話すのはこれが初めてのことだ。
先日、軽く調査をしたところ、どうやら彼の父親も同じく風紀委員長を務めていて、目覚ましい功績があったんだとか。
その影響からか、エガードは二年生にも関わらず風紀委員長に就任したとのこと。
(親の能力と本人の能力は全く別物だと思いますけどね)
そんなことを考えながら、言われた通りリーネは席に座った。




