第10話 噂と視線
(やけに見られていますね)
次の日、リーネが学園に向かっていると、周囲の生徒たちが自分をちらちらと見ていることに気づいた。
(ふむ、昨日の今日なのに噂が広がるのがやけに早いみたいですね)
生徒の多くは貴族だ。情報こそが命であるからこれはいい傾向ではあるかもしれない。
(タンブルウッド王国の未来は安泰かもしれませんね)
そんなことを考えて薄く笑いながら歩いていると、それを見た生徒たちが足早に立ち去っていくのがわかった。
(もっとも、根も葉もない噂に振り回されているのは大きなマイナスですが)
どちらかといえば、マイナスのほうが大きいだろう。
王国の未来などさほど興味がないリーネは、そんな周りの視線を面白がりながらも堂々と道を行くのであった。
ガラガラと音を立てて、教室に入る。
リーネが入った瞬間、教室内での会話はピタリと止まった。
一瞬、全員の視線が集まった後、すぐに離れていく。
(あらら、随分とわかりやすいですね。貴族がそんなに露骨では駄目ですよ)
教室内の空気がピリピリとしている中、窓際の自分の席へと向かう。
「おはようございます」
「お、おはよぅ……」
なんとなく反応が見たくて、隣の席の生徒に挨拶をしてみたら、露骨に怯えられた。
どうにか頑張って挨拶を返したものの、怖くなったのか、リーネが座ると同時に彼は席を立ってどこかへ行ってしまった。
(ふむ、思っていた以上に噂は広まっているみたいですね)
この感じでは、学校中に広まっているというのもありえるのかもしれない。
(どういう感じで広まったのか、後でノエラと調べてみたら面白いかもしれませんね)
それはきっと、リーネにとって面白い情報になるはずだから。
ある種、針のむしろ状態のままで授業が始まった。
科目は魔法学。魔法理論の基礎を学ぶ授業だ。
とはいっても、体質的に魔法を使えないリーネにはほとんど関係がなく、早々にテストを終わらせた後に、退屈しのぎに窓の外を眺めていた。
(……視線を感じる)
テスト中にもかかわらず、誰かが自分のことを見る感覚がした。長年人から見られることでリーネの感覚はかなり鋭敏になっている。
その方向に視線を向けてみると、そこには怯えたようなこちらを見る教師が慌てて顔を逸らした。
(あらあら、教員までもが噂をご存知なんですかね?)
顔を逸らしていても、横目でこちらを気にしているのがわかって、思わず笑ってしまった。
(しかし、教師までですか、これは面白くなってきましたね)
噂を広げた人がいる。これはもう確定だろう。
そして、それは、リーネに対するあからさまな悪意だ。
(ノエラが戻ってきてからにするつもりだったけれど、気になりますね)
どうしても気になってきたリーネは、ガラガラと椅子を引いて立ち上がった。
教室中の視線が一斉にリーネに注がれ、そして一斉に離れていく。
(関わりたくないという明確な意思を感じますね)
思わず笑いそうになったのをこらえながら、リーネは教員に目を向けた。
「先生、少々お手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい……かまいませんよ」
生徒たちと違って目をそらすことのできない教員は、それでも頑張って必死で平静を装いつつリーネに許可を出してきた。
「ありがとうございます」
リーネはにっこりと笑い、わざと教室の真ん中を通ってドアへ向かう。
ちらりちらりと生徒たちがリーネを見てくるのがわかる。
「ふふっ」
ちくちくと刺さるような視線がなんだか面白くて笑ってしまうと、近くにいた生徒がびくっと体を震わせた。
「おっと、失礼しました」
もちろん悪いなんて思ってもいないリーネは悠然と教室を出た。
ドアを閉める直前、教室から一斉にため息のような音が聞こえてきたのを聞いてリーネは更に笑いをこらえきれなかった。




