夢里0 ユメの始まり
「夢に落ちる音がした」
町が焼かれる夢だった。目の前でくずれていく建物、聞こえて来る悲鳴。
夢だと分かっている…いやそうじゃないと…目の前で化け物に殺される家族や妹の説明がつかない…俺は、その化け物が家族を、友人を、町の人を食い殺されるのをただ見ることしかできなかった。
目の前まで、それが来ても俺はやっぱり動けなかった。気が付いたときには、俺は殴り飛ばされていた。
「――動けるか」
突然誰かの声が、真っ暗な空間に響いた。
はっと気がつく、いつもの天井…自分の部屋のベットの上。でもどこか違う…
「…夢…なのか?」
いつもの朝…
「お兄、起きて。ごはん冷めるよ~」
横から声がする。起こしに来る、妹のゆずはの声。
「…生きてる…」
「は?何言ってんの?」
「いやすまん…」
「何してるの?早く降りて来なさい。」
一階からいつもの母さんの声
「すぐ行くから先行って」
俺は、ゆずはにそう言った。
「は~い、早くしてよ。今日出かけるんだから」
「わかってる」
ゆずはが部屋を出たのを見て、深い息をして、俺は立ち上がった。
まだ状況がつかめない、そんな気がする。
とりあえず着替えて、一階のリビングへ向かう。
「で、急に生きてるとかわけわかんないこと言いだしてさ~」
声がリビングから聞こえる。かすかにテレビの音がする。そんなリビングに入る。
「おはよう…」
「おはよう。大丈夫?」
母さんが聞いてくる。当たり前のこと…のはず。
「ああ、少し変な夢を見ちまってな」
「本当に大丈夫?」
本気で心配している顔だ。仕方あるまい、今の世の中では「悪夢を見る」ことは危険と認識されているもの。
テレビの音がする、ニュースが流れているようだ。少しテレビに耳を傾ける。
『昨日、新たに27名の行方が分からなくなりました。いずれも千葉県特別警戒区域「夢里第三号」の注意区域にて消息がと絶えたとのことです。防夢省の調査によると、ーーによる事件で間違いないとのことです。また国ではこう言った被害がーーーー』
「悪夢」によって心を壊された者は、無意識のうちに夢里に向かうらしい。
母さんが心配するのも当たり前だ…でも何かが違う。
「本当に?」
「いや本当に大丈夫だって」
そう言って笑って見せた。
違和感…
つい先ほどまで、明るかった空はーー今や漆黒に包まれていた。唯一の明かりは燃える町だった。
「はい、お茶」
『ーー千葉県特別警戒区域「夢里第三号」の浸食活動の活発化にともない周囲地域の避難を始めるとのことです。周辺にお住まいの方は、避難をーー』
素っ気なく妹が湯気が昇っているお茶を持ってきた。
「…ぉぃ…おい!避難しな/」
ゆずはーー妹がそのお茶をぶっかけてきた。
「⁉、おまっ、なにすんだよ!!熱いじゃねーか!」
「ほんとに?」
「当たりま……!?」
湯気が昇っているお茶が体にかかったら「熱い」はず…でも熱くない。まるで、夢の中。
『ーー周辺にお住まいの方は、避難をーー』
「起きた?お兄」
そう言う、ゆずは…は体が少しかすんでいるように見える
壁が少しずつ青黒く浸食され始まっていた
『ーーいの方は、避難をはじーー』
「そろそろ起きなさい」
そう言う、母さん…からだは粒子のよう今にも風で飛ばされそうだった。
「ま…待てよ。どういうことだよ!」
夜まで気付くのが遅れた、国も防夢省も奴らの力を。それ故に、避難警告も遅れた。
『ーー千葉 別警戒区域「夢里第三号」の浸食 動 発化の急速 ともない、周 にお住 は避難をし ださいーー』
浸食されたテレビから音が聞こえる
「ここはユメだよ。あんたのね」
「お兄早く来すぎじゃだめだから」
夢を見ていた、幼いころの自分の夢を。あの夜、家族が殺され、無力に叫ぶことしかできない、奪われてばかりな自分を。
夢を見ていた
真っ黒な影がこちらを見下ろしていた。
黒いコートに黒いブーツ、そしてーー肩に、足が3本あるカラスのマーク。
「“ヤタガラス”だ。お前も今日から、その一羽になる」
「……は?」
どうやら、瓦礫に埋まっていたらしい。そのおかけか、大きなけがはしていない。まだガンガンする頭をフル回転させた。
何言ってんだこの人?
だって俺は、ただの高校生だ。家族もいる……いたはずだ。
「お前は“見た”んだろ?奴らを。ならもう、戻れねぇよ」
奴ら?
脳内によぎる
ーー母さんの体を引き裂き、妹の頭を潰した黒い獣をーー
どこかに隠れていたのか、突然脳内に浮かんだ獣が男を襲う、がーー男は動じず、ただ手をかざした。それだけで獣が後型もなく吹き飛んだ。
獣の残骸には目もくれず男は、手を差し出してきた。
その掌に、何かが浮かんでいる。金属のカードのようなもの。
刻まれた文字は
《防夢省 ランク:☐ 部隊:☐》
「名前は?」
「……夕暮、日立」
「日立。お前は今から、“夢使い”だ」
そう言われた瞬間――
世界が、ぐにゃりと歪んだ、ように感じた。
そして、俺の足元に、“何か”が現れた。
ドクン――と心臓が鳴るたびに、空気が重くなる。
黒く、ぬらぬらとした新たな獣。さっきの奴とは比べ物にならない威圧感を感じる。
そいつ以外にも数えきれないくらい現れだした。
牙をむき出しにして、咆哮する。
「“夢災害”、発生だ」
影の男が言う。
「初仕事だ。死ぬなよ、“夢使い”日立」
俺はまだ何が起きたか、理解が出来なかった。
ただ家族を殺された怒りだけは底無しに湧き出す。
復讐を誓った。そのために利用できるものは何でも利用してやる。
それが夢の力でも
「ーーーーーーー」
脳内に浮かんだ言葉を叫ぶ。
ただ殲滅のイメージをするだけ、それだけてやつらが貫かれ、引き裂かれ、朽ち果て、消滅する。奴らの体液のような青黒いものが飛び散り、黒い雨のようになっても関係ない。奴らの四肢がつぶれ、肉塊になっても関係ない。ただただ殺す。
殺して殺してそして殺した…
気付いた頃には周囲に、夢の獣ーー喰夢は一体もいなくなっていた。喰夢が消滅する、粒子となって。
《防夢省 夕暮日立 ランク:夢使い 部隊:ヤタガラス》
俺は防夢省の特別部隊「ヤタガラス」に配属された。
必然的に助けてくれた男ーーもといい隊長について行くことになった。
特別部隊とは名ばかり、今回の災害に対処するために急遽集められた玉砕前提の突撃部隊。
「日立、お前は才能がある、俺の後…お前がつけ」
喰夢殲滅を見てた隊長がそう言う。
俺には関係ない。別に感謝をしてないわけじゃない、むしろ尊敬すらしている。ただ自分は家族の復讐をする為だけで入った、と言っても過言ではない。そして復讐する気持ちが収まれば脱隊する気すらあった。
そんな甘い考えの自分を、今考えると殴りたくなる。
初めての正式任務。
任務はただ、避難の援護のはずだった…
「日立!!!!全員を撤退させろ!」
予想以上の大型の喰夢の群れと夢里の浸食。
そう叫ぶ隊長。迫りくる喰夢の群れ。群れに捨て身で突撃する隊長の背中。
「隊長!?」
今すぐにでも加勢しようとした。
でも、隊長は笑って言った。
「来るな…これは隊長命令だ。」
その言葉を聞いた途端、心がちぎれそうに傷んだ。
立ち留まっていた俺は他部隊によって、非難用車両に引き上げられた。
この時も俺は、見ていることしかできなかった。隊長が遠くなっていく、やつらに体を喰われながら。涙はとうに枯れ切っていた。
夢を見ていたか。家族の骸を前に、入隊する自分の夢を。隊長がいるからと、侮っていた自分を。
夢を見ていた 誰も救えない自分の夢を
夢を見ていた 上に逆らえない自分の夢を
夢を見ていた 悲しみでつぶれそうになる自分の夢を
夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…夢を見ていた…
そんな夢を見た
人は走馬灯を見る、まるで夢のようなものだった
それは死ぬ前だけではない、死ぬほどつらい時にも、そしてそれに似た事に直面した時にも見る
ーーと俺は勝手に思う
隊長がーー元隊長が死んでから数年。当時不明瞭だった「ヤタガラス」は俺ーー夕暮日立が隊長となって新た形式に作り替えた。元々隊員が少なかったが、今は総員4名。目標は「大型夢縁災害」の再発生防止、「一般夢縁者」の捜索と保護、暴走の防止となった。
拳を握りしめた俺は、半壊したビルの中へ足を踏み入れた。
今回はあの事件が起きてから新たに出来た千葉の「夢里新3号」の表面世界への浸食活発化の原因調査と拡大防止。
仲間の制止なんて、もう聞こえていなかった。
外ではすでに夢災害の封鎖ラインが張られ、避難も済んでいる。ライン内の廃ビルでは喰夢の群れが暴れている。
でも、奥にまだ誰かがいる。生きてる。
気配が、ある。
ーーそして、それは「喰夢」じゃない。
「“夢想具解放”」
俺の両手に装着された、黒鉄のグローブが淡く発光する。
「創造者」
そう唱えれば、後はーー脳裏にイメージを浮かべた瞬間、手のひらから金属のような物質の柱が複数伸び、崩れかけた天井を支えた。退路確報も考えると15分は保持を続けなければいけない。
「保てよ……!」
構造が不安定すぎる。そもそも5分以上の保持そのものの負荷が重い。それが複数となれば痛みで動けなくなるのが普通。
だけど、今さら引けるかよ。
自分の体やり鞭を打つように叫ぶ
「…ぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
廊下の先――瓦礫の山の中に、それはいた。
「……いた!」
少年だった。
ボロボロのパーカー服。気を失っているようだ。
そして目の前には、異形の影がうごめいている。
“喰夢”ーーそれも、通常のものとは違う。
『分類不能。融合体……高位の夢憑種‼』
と、脳内にナッシーの声が走る。
奴の夢想具の能力多重管理からの遠隔通信だ。
『おい、引け日立! そいつはーー』
「引けるかよ!」
俺は走った。創造した柱が軋む音が、腕から全身に響く。
喰夢が少年に牙を向ける、その瞬間ーー
ーー走馬灯を見た
死ぬほどつらい時にも、そしてそれに似た事に直面した時にも見ると俺は勝手に思う
今回は間違いなく後者だ。ーー
だから、俺は迷わず跳んだ。
ドガアァァァン‼廃ビルの壁にぶつかる。
身体を盾に、少年を覆った瞬間、喰夢の咆哮が耳をつんざく。
追撃がーー来る‼
「ぐっ……!」
無理な体制か体をひねって回避をする。
背中が焼ける。痛みが体に響く。
俺の脚がーー右脚が、切り落とされた。激痛がさらに走る。
『バカヤロー!手間かけやがって!サポートとするから5秒耐えろ!』
「…はぁ…はぁ、5秒でいいのかっ…へっ余裕でっせ!」
俺は創った。
右足の代わりに、金属の義足を。創造者の力で。
代償なんて考える余裕はなかった。
負荷が脳を突き抜ける。出血も相まって視界が白黒になる。
でも、創った。
『視界共有!!!っ最も早い経路だ!矢印に沿っていけ!」
世界が、元の色を取り戻す。そこにVRのような紫の矢印が映る。
示す先はーー崩れ落ちだ絶壁だった
「…安全経路では…ないね…」
『当たりめーだ!もう創造者保たないだろ?』
「つつっっ…へっ…行くぜ!!!!」
俺は、少年を抱え、浸食によって崩れ落ちるの建物を抜けた。
体が自然落下をする。逆らえない自然の理。喰夢も、同じように落ちる。
しかし、夢の力はそれすら捻じ曲げる…ナッシーの力によって体が上に引っ張られる。だが長くはもたない。即座に足場を見つけに着地する。と、同時に矢印に沿って走り出す。
後ろからはしつこく喰夢が追いかけてこようとする。
慣れない義足で全速力で走った。そして、突入に作った経路まで戻った。
出口が見える
創造した柱を解く
後ろから喰夢の怒り狂った咆哮が聞こえる
出口に向かって飛ぶ
ーーその瞬間、俺の右脚は砕け散った。
廊下を抜け、崩れる出口を飛び越えーー
青空が広がる、隊員が駆け寄ってきた。
「はぁはぁ…」
「日立隊長の脱出を確認!1,2,3番隊は正面の警戒!」
「S1番隊は中の状況を可能の限り確認急げ!」
「他部隊は他方面の警戒を怠るな!」
他部隊の隊長の命令が聞こえる。
息を整えながら少年を地面に降ろした。
すると少年が目覚めた。黒い瞳から、感情を感じない。いや、悲しみしか感じない。
静かに口を開く。
「…名前は?」
「……こまち……まこいち……」
「覚えた。マコイチ。俺は夕暮 日立だ」
「……」
「家族…は?」
「……」
「…そうか」
我ながらひどい質問だったと思う。そしてもう一つの疑問を投げかけようと口を開いたところで隊員の
白峰ちひろーーちぃが遮る。
「隊長、一回休みましょう?隊長もケガをしーー」
「……」
ちぃも気づいたようだ。
その時、遠くでサイレンが鳴り響いた。
防夢省の増援が到着したのだ。
「ではそのよう上に報告します。よろしいですか?」
「頼んだ…新しい服も買っとこう。ナッシーたちにも伝えてくれるか?」
「…分かりました。この子の保護管理頼みますよ。」
「ああ…」
そう言うとちぃは静かに去った。
するとマコイチの目から涙が1つ、頬を伝って地面に落ちるのを見た。
「泣くほど辛かったんだな…」
「……」
「今は泣け…そして泣き止んだら笑え」
搬送されるマコイチを見送りながら、俺は拳を握る。
――もう二度と、目の前で誰も奪わせない。
――この力がある限り、何度でも創ってみせる。
たとえ、代償が俺自身だったとしても。
夜の空に、カラスの影が舞った。
それは、これからの俺たちの運命を告げるかのように。
ーーーそして、現在に至るーーー
この度は本作、夢里「ユメの始まり」を手に取っていただき誠にありがとうござい!
本作は、夢里の本編前のプロローグとして作らせていただ短編です。ですので、わからない設定等が多かったと思います。それでも最後まで読んでもらえたことに感謝で涙が止まらないです( ;∀;)
また、本作は私が初めて書いた作品でもあります。もちろん続編を書いていくつもりでが、まだまだ不束者ですのでアドバイスがありましたら、ぜひご教示ください(>_<)≪お願いします!≫
また学生であるため、少し投稿が遅いかもしれません(本当にごめんなさい)ですので気長に、待っていただければと思います('◇')ゞ
改めまして、最後までお読みいただきありがとうございました!
小町マコイチ