第五話 十二年後の再会
第五話 十二年後の再会
〜あれから十二年後〜
良雄は、大学生になっていた。
大阪の山田新聞舗と言う所で新聞奨学生をやっていた。
すっかり遊び人と化し、三年も浪人し、やっとこさ大学に入ったのだ。
それでもう新聞販売店を辞める事になった。
浪人の時はアルバイトは少ないが、流石に大学生になると何かとアルバイトはあるものなのだ。
そう言えば、良雄の本名は平野良雄。
最果て島は、中学一年の頃、親父の転勤で長崎市内に引っ越して、それから更に、佐世保市に引っ越して、高校は、村上龍氏の母校へは行けずに、一応、他の進学校に入学した。けれど、高校の成績は悪かった。
全く、勉強しなかったのだ。
ギターばっかり弾いていて、授業は全く聞いていなかった。
定期試験の時だけ勉強して、何とか追試で進級し、卒業出来たのだ。
良雄の父親は、長崎市内の時はマル暴にいたが、佐世保の警察所に移ってからは、内勤になったので、家族は安心して平和が訪れ、良雄の成績にも文句言わなくなっていたのだ。
勉強なんかより、普通に、平和に、生活出来れば、それで良いと言う世界に変わっていたのだ。
今まで苦労知らずに生きてきた良雄は、心機一転、大阪に行って新聞奨学生になって、大学を卒業したら、東京で就職して、そのあと、親戚のいるカリフォルニアのマリーゴールドに移住したいという、壮大な計画を立てていたのだ。
ボンボンの良雄は、新聞販売店に初めて入った時に、朝三時起きと言うのにびっくりした。
朝の六時半くらいには終わらせなければならなかったが、根性が鍛えられて、だんだん横着になり、四時起きの、七時終わりくらいになっていたのだ。
それにそもそも、大阪ミナミで二時くらいまで呑んで、寝たり寝なかったりで、朝刊を配った後は、『成金屋』と言う、食堂で、ツケでビールを呑んで朝飯を食い。予備校など、全く行かなかったのだ。
それから爆睡し、夕方三時から五時過ぎまで夕刊配ったら、パチンコに行ったり、麻雀したり、浪人生の分際で、キャバくらやラウンジに行き、前借りし過ぎて、給料袋カラと言う事態になっていた。
昔の真面目な良雄などいなかった。一度、朝の五時過ぎまで、ミナミのホステスと寝ていたら、所長のアキラさんが乗り込んで来て、ボロカスに怒鳴られてしまった。
アキラさんは勿論、元有名な大阪のヤンキーで、遊び人化した良雄には優しかったが、流石に仕事がいい加減だと、こっ酷く怒られたのである。
アキラさんは『難波金融の竹内力』そっくりで、近くの大物ヤクザとも普通に会話して、若い衆などに挨拶されるくらい、いかついカッコいいカタギだったのだ。
新聞配る子なんて、皆んなクソ真面目が多かったが、良雄の遊び好きで正直一本の性格が、アキラさんには気にいられたのだ。
しかし、アキラさんも新しい店舗を持つ事になり、良雄も度が過ぎていたので、飽きられるようになり、あまり良い関係では無くなっていたのだ。
(もう、辞めなきゃな)と良雄が思っていた所、大学の合格通知が届いたのである。
それに、新聞奨学会の借金も少なくなっていたので、「就職まで、残りは置いといてや」とか、言って辞めさせて貰ったのである。
*信じられないが、昔はこう言う事が通じたのだ 笑笑*
それから、良雄は大学の近くに引っ越して、オーナーが弁護士の、家の離れの安い学生アパートに入れて貰った。
昔は、ボランティア価格でやってる善人がいたのだ。
アルバイトを色々やって生活していたが、夏休みに入る前に、長期でバイトを探していると、
「おーい」と大学の連れがやって来て、
「夏休みの間だけ、郵便局で働かへんか?!」と言って来た。
夏休みに海外行くらしい。
「お前どうせ貧乏やねんから、何処も行かんやろ〜」と言うので、
「阿保〜 海くらい行けるわい」と言うと
「どうせ二、三日だけやろ、給料良いし、女子大の近くも配るぞ」
「えっ」
それでやろうかなぁ〜と言う気に良雄はなったのだ。
面接に行くと、あっさり合格して、とりあえず夏休みだけ、郵便局の配達のアルバイトをする事になった。
それから、一週間くらい訓練を受けて、書留も持たせてもらえるくらいまでになった。
なかなかすぐには、当時でも、信用が無いと書留は持たせてくれなかったが、良雄は新聞奨学生の頃とは違って、あちこちアルバイトに行って、たくましく真面目に仕事が出来るようになっていたのだ。
それで夏休み、赤いチャリンコにサイドバックをつけて、制服が届くまで、半袖半ズボンで配達していた。
(おう、ここが女子寮か〜)と、玄関のチャイムを押すと、「は〜い」と可愛い女の子が出て来たので、「書留もあるんで、印鑑を」と言った瞬間、無愛想なおばさんが出て来て、「こっちこっち」と、こっちに渡せと、ムカつく態度で言われた。
(ナンパしに来てるわけぢゃね〜よ)と思いながら書留を渡すと、(油断も隙もない)みたいな表情をされてムカついたが、奥の個室のアパートは直接行かなければならないので、イライラしながら奥に行って、ピンポン押すと、
「は〜い」と四季ちゃんみたいな眠そうな声で、笑笑 目を擦りながら出て来た。
「出口久美子さんですか?!」と言うと、
「はい」と後ろを振り向いて、印鑑を探しながら、
「サインでイイ?!」
「はい」と言うと、
「え、良雄くん?!」
「え、あ、久美ちゃん?!」
「え〜 、久しぶり〜 」と女の子の顔がパーっと明るくなり、思わず良雄は?!
「今、なんばしよると?!、大学生になったと?!」と言うと、
「うん、近くの女子大行ってる。スポーツ推薦やけん、大変」
「えっ、何の?!」
「ボクシングに決まってるやん」と、拳を良雄の顔面のスレスレ手前で止めた。
「え〜、ライン聞いていい?!」
「うん、いいよ」とライン交換していると、後ろから婆あが、
「ナンパ禁止やで〜 しかもあんた局員やろ?! 局に電話したろか?!」と言うので、
「幼馴染との再会やからええやん、こんな偶然滅多にないやろう、人としての思いやりはないんかぁ〜笑笑」と言うと、婆あは、
「ちぃ〜っ、しゃあないなぁ〜」と向こうに行った。
それから少しだけ喋って、配達に戻った。半袖半ズボンの制帽だけつけた郵便局員は、ニタニタしながら、
「やった〜」と拳をあげた。