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第三話 新約聖書

第三話 新約聖書

 トーマスは、良く格闘技を研究していた。

 しかし、子供の頃は、よくイジメられていたのだ。

半分日本人、残りは、白人と黒人の血が混じっていたからだ。

アジア人でもあり、白人でもあり、黒人でもある。自分のアイデンティティーは一体なんなんだろうかといつも悩んでいたのである。

 スポーツ選手からしたら、黒人も白人も混じっているなんて、最高の様な気がするが、母親の温子は、優しくて強くて、物凄く頭も良かったのである。トーマスにとって理想の女性だった。それで、トーマスは、母親に気に入られる為に、スポーツよりも、本を読んだり、数学や科学をよく勉強する子供になっていったのだ。

 それで、三回ほど飛び級もした。そうなると、全く友達ができないのであった。

 しかし、ある日、十五才の夏、日本人の親子が、トーマスの住むサンフランシスコに引っ越して来たのであった。

 それで、その家族に招待されて、ご飯を食べに行くと、『家に巻き藁スタンド』と言うものがあったのだ。

「何これ?!」と聞くと、日本人の親子は、「これで空手の練習をするんだよ」と教えてくれた。『光一』と言うその男の子は、同級生で空手の達人だったのだ。

 一緒に遊んでいる時に、トーマスの苦手な連中が来て、からかって来た時に、空手の技で、四、五人やっつけてしまったのだ。

 大ショックだった。それで、いつまでも母親好き好きから、一気に格闘技の世界へと突入してしまうのであった。ブルースリーからショウコスギまで、映画を観まくり、街の道場に通い、あらゆる格闘技雑誌を片っ端から読んだのである。

 その時にひとりの格闘家が気になっていた。『ベニーユキーデ』だった。

 白人なのに、日本人の空手家や、日本のキックボクサーをガンガンやっつけながらも、いつも聖書を読んでいて、教養も高かったのだ。

 強いのは憧れるが、周りは馬鹿ばっかりで、少し(なんだかなぁ〜)と思っていた時に、インテリのベニーは救世主みたいなものだった。

 それから、ベニーがやっていたと言う格闘技は何でもやった。柔道、ボクシング、剣道、レスリング、合気道、キックボクシング、そして、新約聖書も読んだ。

 宗教と科学は別物だと思われがちだが、学問は全てクロスオーバーするものだ。

 トーマスは、キリスト教以外にもアジアの仏教の本も良く読んでいた。強くなりたいだけではない。神に近づきたかったのである。

 これだけの格闘エリートで、学問にも長けているなら、勝男なんかとは、全く別の種類の人間みたいだが、実はそうではない。

 勝男もお金が無くて、中洲には行けなかったので、図書館で本を借りて読んで行くうちに、学問と格闘技について考える様になって来ていたのだ。

 ブルースリーもそうだが、格闘家は、無になり、自我を排除して、全てを受け入れる道へと導くのだ。

 勝男のストイックなスタイルをビデオで観た時に、トーマスは勝男から、なにか哲学的な思想や、宗教をも含めた、達観の領域を感じとったのだ。

 事実、勝男はブルースリーの哲学が好きだったのだ。『考えるより、感じろ』や、『勝ちたい、とか言う気持ちは、無意味で、ただ鍛錬して、単に強いものが、弱いものに勝つ、ただ、それだけの事だ』と言う言葉が好きだった。

 それで、勝男は、トーマスに指名して貰えるようになったのだ。

アメリカのボクシングチャンピオンが、日本チャンピオンとは言え、無名の勝男を指名するのは異例の事だった。

 勝男のジムは驚き、火の車だったジムは、福岡銀行から多額の借金をして、一発逆転を狙ったのだ。

 勝男のお陰で有名になった。これでジムの入門者も増えてジムの経営も安定するだろう。しかし勝男はもうこの世には居なかった。


 勝男の葬式はひっそり行われた。

トーマスのせいではないが、トーマスから多額の香典が送られた。

 勝男のファイトマネーで、もう久美子康子親子は、お金で苦労する事は無くなった。しかも、母親康子の実家に行くのだから、経済的には苦労もしない筈だ。

 良雄はとても悲しかった。泣いてる久美子よりも、遠くに行ってしまう久美子がいなくなると思うと眠れ無かった。

 小さい頃から一緒に遊んできた幼馴染だったのだ。良雄の父親は、警察官で、良雄一家は最果て島の駐在所に住んでいたのである。田舎の駐在所に良くある話だ。

 いつも駐在所前の駐車場で二人で遊んでいたのだった。それと、久美子に、「とうちゃんが勝っても負けても、吉美ちゃん達と決闘ばするけん」と言う話を聞いていたのだ。

 良雄は、色々悩んで、朝ご飯を食べている時に、父親に泣きながら「久美ちゃんが決闘するかも知れんけん、とうちゃん助けに来て」と告白したのであった。

 父親は一瞬顔が強張ったが、良雄の頭を撫でてくれて、「大丈夫やけん、はよ学校に行かんね」と送り出してくれた。



 続く〜

 

 

 

 

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