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三題噺もどき4

公園に

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくよん。

 



 歩を進めていくと、土の濡れたような匂いがした。

 今は降っていないが、どこかのタイミングで雨が降ったのだろう。

 これは、公園に残る雨の匂いだ。

「……」

 歩いてきたアスファルトはそこまで濡れていなかったから、雨が上がってからそれなりに時間は経っているのだろう。

 土はそういうのが残りやすいからな……。

「……」

 入り口近くにつくと、更にその匂いが増す。

 いつ頃降ったのかは分からないが、ここに育つ草木には丁度いい水分だったのだろう。

 雨のにおいに混じって、花の匂いも漂ってくる。ここは管理している人間が居て、かなり丁寧に世話をしたり、豆に植え替えたりしているのか、よく綺麗に花が咲いている印象がある。常に何かは花壇にいるな……植え替えのタイミングが合えば土だけの時もあるが。

「……」

 ただし、遊具にとっては嬉しいものという限りでもないんだろうな。

 遊び相手もいないし、最悪サビてしまう可能性もあるものだから……。

 最近話し相手にもなってやれていなかったから、こうして来たのだが。

「……やあ」

 公園の入り口を入っていくと、地球儀の形をした遊具が出迎える。

 彼はここではかなり長く居るのか、大人びた印象がある。使う側もそれなりに年の上の子達が使うのかもしれない。まぁ、少々危険だからな……。

 遊び方次第では撤去されそうな遊具な気もするが、そこはそれ。使う者たちが何も起さずに使っているから居続けているのだろう。

「……」

 更に中に入ってくと、そこには大きな木が立っている。

 春には立派に咲き誇る桜の木だが、今は緑の葉が広がっているばかりだ。

 これはこれでいいものだ。

 桜の舞う春が過ぎ、緑の映える夏が来たのだと、教えてくれる。

 ……まぁ、そうでなくても日々更新される暑さのせいで夏が来たなと思うのだけど。

「……」

 そこまで広い公園でもないので、入り口からほとんどすぐに他の遊具たちにも出会う。

 ジャングルジムに、シーソー。短めの雲梯と高さが三種類ほどある鉄棒。もちろん滑り台も砂場もある。

 こう、改めてみると、それなりに遊具のそろった公園なのだなと感じる。

 遊ぶには持って来いな場所だ。ここらに住む人間はこの公園を大切に守りながら使っているのだろう。

「……久しぶり」

 その中遊具の中のひとつである、拗ね気味のブランコに座る。

 この間は濡れていたのに気づかずに座ったから、軽く掃ってから座る。

 やはり乾いていたから、雨はかなり前に上がったのだろう。

「……すまんすまん」

 子供が駄々をこねるように、あれこれと言いながら文句を垂れている。

 そういうわりにはこうして座らせてくれるのだから、子供らしいと言うかなんというか。

 可愛いものを見ているような気分になる。

「……うん、うん……ん?」

 こぼれる文句に相槌を打ちながら、椅子を揺らしていると。

 私が入ってきた方とは別の入り口から、何の影が入ってきた。

 ……また何か変な刺客でも来たのだろうかと、少し警戒をしたが。

「……お前」

 それは。犬だった。

 口にボールを咥えて、何やら嬉しそうに。

 以前公園に入ろうとしたときに突進してきたのと同じ犬だ。せっかく返したのにまた来たのだろうか……遊び相手でも何でもないぞ私は。

「……はぁ」

 咥えていたボールを足元に転がしてきた。

 見た所、ボロボロで噛み跡が酷いが、テニスの硬球のようだった。

 手に取ると、それは半透明で私の掌が少々透けて見える。モノとしてここにあるのではなく、この犬に付随してきた影としてのボールなのだろう。

「……投げろと?」

 先程からやけにブランコが騒いでいるが、知り合いなのだろうか。

 生きている時にここに遊びにでも来たか?それとも、ブランコにマーキングでもしたのか?

「……仕方ない」

 残念ながら、見えて、さわれると、気づかせてしまったのはこちらだ。

 飼い主にも気づかれず、他の誰にも気づかれず、ただひたすらに遊び相手を探していただけのコイツに、それを教えてしまったのは私だ。

 その責任くらいは取ってやろう。満足すれば勝手に還るだろう。

「……そら」


 それから、数十分ほど公園にいた。

 帰ってする仕事はあるし、勉強もしないといけなかったのだけど。

 まぁ、それは、詰めすぎてもよくないと言うことだったのだ。

 そういうことにしておこう。





「おかえりなさい」

「ただいま」

「……シャワー浴びますか?」

「あぁ、そうする。暑くてかなわん」

「いや……まぁ、そうですね」

「なんだ?」

「……いえ、なんでもないです」











 お題:桜・硬球・雨


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